固定残業で設定できる上限は45時間? 固定残業代の基礎知識と注意点

2022年07月14日
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固定残業で設定できる上限は45時間? 固定残業代の基礎知識と注意点

令和3年9月の神奈川労働局の発表によると、令和2年度に長時間労働が疑われるとして監督指導が行われた神奈川県内の事業場は、842事業場でした。そのうちの284事業場で、違法な時間外労働が確認されて是正・改善指導が行われました。

毎月決まった残業代(固定残業手当)を支給する「固定残業代制」は、正しく運用される限り、従業員にとってもメリットのある制度です。しかし、固定残業代制が間違った形で運用されて、企業が従業員を搾取している例もあります。

特に、固定残業時間が45時間を大きく超えて設定されている場合、固定残業代制が無効となり、未払い残業代が発生している可能性が高いと考えられます。固定残業代制の運用について疑問を持った場合は、弁護士へご相談ください。

本コラムでは、固定残業代制に関して労働者が留意すべき基礎知識や注意点を、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。

1、「固定残業代制」とは?

固定残業代制とは、あらかじめ固定残業時間と固定残業代を定めておき、使用者が労働者に対して、毎月必ず固定残業代を支給する残業制度です。
固定残業時間を超過する労働が行われた場合、固定残業代に加えて、超過時間数に対応する残業代が支払われます。

固定残業代制は、労働基準法に従って運用される限り、使用者側と労働者側の双方にとってメリットがある制度です

使用者側としては、「固定残業代制を導入することによって、ベースとなる賃金を高めに表示して求人を行うことができる」というメリットがあります。
基本給と固定残業代を区別して表示する必要はありますが、「毎月これだけの給料が必ず支払われる」という事実は、応募者にとってポジティブに受け取られることが多く、優秀な人材の確保につながる可能性が高いためです。

労働者側としては、毎月の残業時間が固定残業時間に満たなくても、固定残業代を必ずもらえる点がメリットになるでしょう。
業務を効率化するなどして、月々の残業時間を減らせば、固定残業代制のメリットをさらに享受できるようになります。

2、固定残業時間の上限は45時間?

固定残業時間を何時間に設定するかは、使用者と労働者の合意によって決まります。

ただし、労働基準法の上限である「月45時間」を大きく超える場合には、固定残業代制が公序良俗違反によって無効となる可能性がある点に注意が必要です

  1. (1)月45時間を大幅に超える場合、公序良俗違反で無効となる可能性が高い

    現行の労働基準法では、労使協定(三六協定)により時間外労働のルールを定める場合、「1カ月当たり45時間」を時間外労働の上限としなければなりません(労働基準法第36条第4項)。

    この時間外労働の上限は、近年の改正法によって導入されたものです。
    しかし、法改正の前から、時間外労働の上限を原則45時間とすべき旨は、厚生労働大臣の通達によって周知されていました。

    労働基準法第36条第5項の規定により、例外的に月45時間を超える時間外労働が認められるケースがありますが、あくまでも通常予見できない業務量の大幅な増加など、臨時的な事情がある場合に限られます。

    一方で、固定残業代制は、固定残業時間に相当する時間外労働が、恒常的に行われる想定の下で導入されるのが一般的です。
    そのため、上記の労働基準法上の規制内容をふまえて、月45時間を大幅に超える固定残業時間が定められている場合、固定残業代制の全部又は一部が無効になると解されているのです

  2. (2)月45時間を大幅に超える固定残業代制が無効となった裁判例

    以下の裁判例では、月45時間を大幅に超える固定残業時間が設定されていたことを理由に、固定残業代制の全部又は一部が無効と判断されました。

    1. ① ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(札幌高判 平成24年10月19日)
      基本給とは別に支給されていた定額の職務手当について、使用者側は95時間分の時間外労働手当であると主張しました。
      しかし、裁判所は、95時間もの長時間の時間外労働を義務付けることは、安全配慮義務違反や公序良俗違反に当たり得ることを指摘しました。
      そのうえで、職務手当を45時間分の固定残業代と評価し、超過分について使用者に残業代の支払いを命じました。
    2. ② マーケティングインフォメーションコミュニティ事件(東京高判 平成26年11月26日)
      おおむね100時間に相当する固定残業時間について、裁判所は、100時間という長時間の時間外労働を恒常的に行わせることは、労働基準法の趣旨に反することを指摘しました。
      そのうえで、裁判所は、固定残業代がその他の賃金と明確に区別されていないことを併せて考慮し、固定残業代制全体を無効と判断しました。

3、固定残業代制が違法・無効となるその他のケース

月45時間を大幅に超えた長時間の固定残業時間が設定されている場合のほか、以下に挙げるようなケースでも、固定残業代制そのものが違法・無効となる場合があります。

  1. (1)基本給部分と固定残業代部分とが区別できない

    固定残業代制を導入する場合、基本給部分と固定残業代部分の区別について、労働契約や正しく周知された就業規則のなかで、労働者に対して明示する必要があります

    • OK例
      月給25万円(基本給20万円、固定残業代5万円)
    • NG例
      月給25万円(固定残業代を含む)


    労働契約や就業規則の記載から、固定残業代の金額がいくらであるか分からない場合には、固定残業代制全体が無効となる場合があります。

  2. (2)固定残業時間を超える部分について、残業代が精算されていない

    固定残業代制を導入していても、固定残業時間を超える残業が行われた場合、使用者は労働者に対して、超過分の残業代を追加で支払わなければなりません

    • OK例
      月給25万円(基本給20万円、固定残業代5万円)
      固定残業時間:月20時間
      →実際の残業時間が月25時間だったので、月給25万円に追加残業代1万2500円を加え、計26万2500円を支払った。
    • NG例
      月給25万円(基本給20万円、固定残業代5万円)
      固定残業時間:月20時間
      →実際の残業時間は月25時間だったが、月給25万円のみを支払った。


    固定残業時間を超える残業について、残業代の精算が行われていない場合、固定残業代全体が無効となる可能性があります。

4、長時間労働や残業代の未払いについては弁護士に相談を

会社が労働基準法を遵守しておらず、違法な長時間労働を強いられている場合や、適正な残業代が支払われていない場合には、弁護士にご相談ください。

弁護士は、会社に対し、会社の労働基準法違反等を指摘し、依頼者に対して正しい待遇を与えるように強く求めることができます
会社との交渉や法的手続きも、弁護士が一括して代行することが可能です。

労働問題について、資金や人員などの体力面で勝る会社と争う場合にも、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士のサポートを受けることで、会社と対等に交渉や法的手続きを進めて、労働者側にとって有利な解決を得られる可能性を高められます。

違法な長時間労働や残業代の未払いなど、会社による不当な待遇にお悩みの方は、お早めに弁護士までご相談ください。

5、まとめ

固定残業代制を導入するには、使用者は労働者に対して基本給部分と固定残業代部分との区別を明らかにした上で、固定残業時間の超過分に対応する残業代を精算しなければなりません。

固定残業時間の定めについては、労働基準法の上限である「月45時間」を大きく超える場合、固定残業代制の全部又は一部が無効となる可能性がある点に注意が必要です。
固定残業代制の運用について疑問点がある方や、「会社から不当な扱いを受けているのではないか…」と感じている方は、弁護士にまでご相談ください。

ベリーベスト法律事務所では、違法な長時間労働や未払い残業代請求などに関して、労働者の方からのご相談を随時受け付けております
固定残業代制に関する会社とのトラブルについては、お早めに、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

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