愛犬の連れ去りは罪に問える? ペットが誘拐されたときの対処法とは
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令和2年には、神奈川県小田原市では631件の窃盗事件が発生しました。
他人が飼っているペットを連れ去る行為は、犯罪に該当して刑事裁判の対象になるだけでなく、不法行為に基づく民事的な損害賠償の対象にもなります。もしご自身が飼っているペットが連れ去られてしまった場合には、まずは速やかに保健所や警察に連絡しましょう。もし犯人に対して損害賠償を請求する場合には、弁護士に相談してください。
本コラムでは、飼っているペットが連れ去られた場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。
1、飼っているペットの連れ去りは犯罪? 罪名・罪に問われないケース
他人が飼っているペットを連れ去る行為は、故意に行ったものである場合には、犯罪に該当します。
以下では、ペットを連れ去れる行為で成立する可能性のある犯罪について解説します。
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(1)他人のペットの連れ去りに成立し得る犯罪の例
ペットは家族の一員なので、誘拐や監禁が成立すると思いたい方もいるかもしれません。しかし、日本の法律では、犬などのペットは「物」として扱われます。
そのため、他人の飼っているペットを連れ去る行為は、窃盗罪・器物損壊罪・動物愛護管理法違反などによって処罰される可能性があります。
法律上、難しい問題なのですが、連れ去った目的により成立する犯罪が違うのです。
● 窃盗罪(刑法第235条)
自分のものにする目的、転売目的などでペットを連れ去った場合、窃盗罪が成立します。
窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
● 器物損壊罪(刑法第261条)
連れ去った後にどこかへ捨てる目的でペットを連れ去った場合、器物損壊罪が成立します。
器物損壊罪の法定刑は「3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料」です。
● 動物愛護管理法違反
連れ去った愛護動物を、正当な理由なく殺傷した場合には「5年以下の懲役または500万円以下」の罰金に処されます(動物愛護管理法第44条第1項)。
また、愛護動物に対して暴行などの虐待を行い、または愛護動物を遺棄した場合には「1年以下の懲役または100万円以下」の罰金に処されます(同法第44条第2項、第3項)。
法律上の「愛護動物」に含まれる動物の種類は、下記の通りです。- 牛
- 馬
- 豚
- めん羊
- 山羊(やぎ)
- 犬
- 猫
- いえうさぎ
- 鶏
- いえばと
- あひる
- その他の人が占有する哺乳類、鳥類、爬虫(はちゅう)類
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(2)他人のペットを連れ去っても罪に問われないケースの例
他人の飼っているペットを連れ去ったとしても、正当な理由があれば違法性が阻却される場合があります。
ただし、正当な理由のハードルは高いです。多頭飼いで飼育環境が劣悪で、そのような環境から保護したというだけでは、正当な理由があったと認められない場合があります。
正当な理由が認められるか否かは、慎重に判断する必要があります。
また、他人の飼っているペットを連れ去る行為は、犯罪の故意がなければ処罰されることはありません。
2、ペットを連れ去る人が有する主な目的
他人のペットを連れ去ってしまう背景には、さまざまな目的があり得ます。
以下では、ペットを連れ去る行為をする人の動機や目的と、処罰の対象になるかどうかについて解説します。
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(1)自分で飼いたい
「他人の飼っているペットがうらやましいが、自分では買えない・手に入らない」という理由から、ペットを連れ去る場合があります。
このような場合には、他人からペットを盗んで自分のものにするという目的があるため、窃盗罪による処罰の対象になります。 -
(2)転売したい・謝礼がほしい
珍しいペットは、ペットサロンなどへ転売すれば高額の金銭を得られる可能性があります。
そのため、転売目的でペットを連れ去る場合もあります。
また、どうしても珍しいペットが欲しい人が、「そのペットを手に入れれば謝礼を支払う」という入手依頼を公表することもあります。
このような入手依頼を受けた人が、街中で発見したペットを連れ去って謝礼を手に入れようとする、というケースもあり得るのです。
転売や謝礼を目的にしてペットを連れ去る行為も、窃盗罪による処罰の対象となります。 -
(3)虐待したい・殺傷したい
まれに、自分で飼育するのではなく、征服欲や暴力的な衝動などを満たすために虐待や殺傷を行う目的でペットを連れ去る人も存在します。
虐待や殺傷を目的にしてペットを連れ去る行為は、器物損壊罪や動物愛護管理法違反によって処罰される可能性があります。 -
(4)保護したい
ペットが虐待されている、または野良犬や野良猫であるなどと勘違いして、そのペットを保護しようとして連れ去る場合もあります。
3、ペットが連れ去られてしまった場合の対処法
ご自身の飼っているペットが連れ去られてしまった場合、ご自身でも情報収集を行いつつ、保健所や警察のサポートを受けることで、奪還を目指しましょう。
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(1)盗まれないように備える
ペットが盗まれた後、仮にペットを見つけられたとしても、盗まれたペットと発見したペットが同一であるかを証明できるかが問題になるケースがあります。
犯人が「いなくなったペットは、自分の下にいるペットとは別の動物だ。」と言い張られた場合、警察等の第三者にペットの同一性を伝えられなければ、泣き寝入りになるおそれがあります。
まずは、スーパーなど大型商業施設の入り口につなぎっぱなしにしない、公園で目を離さない、室内で飼う、防犯カメラを設置するなど、ペットを連れ去られないようにする工夫をすることが大切です。
とはいえ、対策をしていても連れ去られてしまう場合があります。
ペットの同一性を証明するために、ICチップ装着を検討しましょう。
動物愛護管理法の改正により、2022年6月から、ペットショップ等では、犬又は猫へのICチップ装着が義務化され、譲渡の際には、所有者情報の登録が必要となります。ICチップの個体番号からペットの同一性を証明することができます。
3000円~1万円ほどの費用でペットの安全を守ることができますし、自治体によっては助成金を用意していることもありますので、お近くの獣医師さんと相談をしてみてください。
GPS付きの首輪などを付ければ、位置情報を調べることも可能です。 -
(2)SNSやビラなどで目撃情報を集める
ペットがいなくなったとき、まずやるべきことは「盗難」か「逸走」かを明らかにすることです。
残念ながら、警察が逸走したペットを探してくるとは限りません。ペットがいなくなったと被害届を出そうとしても、「盗難」か「逸走」かが分からなければ事実上拒否されてしまう場合があります。
特にペットが室外でいなくなってしまった場合は、「盗難」であるかどうかを調べましょう。
SNSやビラなどによって情報提供を求めれば、目撃情報を得られるかもしれません。
失踪した場所や日時などを明らかにして広く情報提供を求めることにより、ペットの発見や犯人の特定につながる可能性が高まります。 -
(3)保健所へ連絡する
ペットがいなくなった場合、保健所によって捕獲や収容をされている可能性があります。
まだ捕獲や収容がされていないとしても、保健所に連絡すれば、保護するための対応に動いてくることがあります。
したがって、ペットが連れ去られた場合には、その地域を管轄する保健所に対してすぐに連絡することが大切です。
連絡する際には、以下のような事項について具体的に伝えましょう。- 連れ去られた日時と場所
- ペットの特徴(種類、性別、年齢、毛色、首輪の色など)
- その他の情報(鑑札、マイクロチップの装着の有無など)
- ペットの写真
- ご自身の連絡先
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(4)警察に連絡する
ペットの連れ去り行為は犯罪に該当し得るため、警察による捜査の対象となる可能性があります。
ペットが連れ去られた可能性が高い場合には、連れ去られたペットを奪還するために、早めに警察へ連絡して協力を求めることが重要です。
また、もしペットを連れ去って保管している犯人が判明した場合にも、ご自身で取り返そうとせず、必ず警察に頼んで取り返してもらってください。
すでに連れ去られてしまったペットを連れ帰ると、ご自身のほうが窃盗罪などに問われるおそれがあるためです。
4、ペットを連れ去った相手に対して損害賠償を請求するには?
他人のペットを勝手に連れ去る行為は、不法行為に基づく損害賠償の対象となります(民法第709条)。
以下では、ペットを連れ去った犯人に対して損害賠償を請求するための手続きを解説します。
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(1)まず犯人を突き止める
まずは、ペットを連れ去った犯人を特定する必要があります。
ペットが連れ去られた現場付近に防犯カメラが設置されていた場合には、その映像を解析することで犯人が判明する可能性があります。
防犯カメラ映像の解析は、警察に依頼する必要があるでしょう。
一方で、連れ去り当時の映像が残っていない場合には、目撃情報などを手掛かりとして連れ去られたペットの居場所を探すことになります。
このような場合にも、警察や保健所の協力を得ながら捜索することで、ペットが見つかる可能性があります。
もしペットが他の人によって保管されている状態で発見された場合には、保管者に対して取り調べを行うことで、連れ去りの犯人が判明する可能性もあります。
なお、近隣地域でペットの連れ去りが頻発している場合には、警察としてすでに犯人の目星を付けていることがあります。
いずれにしても、ペットを捜索する際には警察と保健所の協力を得ることが重要になるのです。 -
(2)交渉を通じて請求する
連れ去りの犯人が特定できたら、その犯人に連絡を取って、損害賠償を求める交渉を開始しましょう。
連れ去りによって大きな精神的損害を受けたことに基づき、精神的損害に対する賠償金である「慰謝料」を、具体的な金額を示したうえで請求することになります。
また、弁護士を代理人として請求を行うことにより、犯人が損害賠償に応じる可能性も高まります。
弁護士を通じて連絡することで、「損害賠償に応じなければ訴訟を提起する」というメッセージが効果的に伝わるためです。 -
(3)訴訟を通じて請求する
連れ去りの犯人が損害賠償に応じない場合には、裁判所に訴訟を提起することも検討しましょう。
訴訟では、裁判所が被害者に生じた客観的な損害額を認定して、連れ去りの犯人に対して損害賠償を命ずる判決を言い渡されることになります。
ただし、適正額の損害賠償を獲得するためには、法廷において効果的に主張や立証を展開することが必要になります。
法律の専門家である弁護士に早い段階から相談して、訴訟の提起を決断した場合にも弁護士に代理人を依頼しましょう。
5、まとめ
ペットが連れ去られた場合、まずは一刻も早くペットを探す必要があります。
「盗難」であることが明らかな場合には、速やかに保健所や警察に連絡して、組織的な捜索を行ってもらいましょう。
ペットを連れ去った犯人が判明したら、連れ去り行為について損害賠償請求を行うことも検討してください。
示談交渉や訴訟を通じて適正な金額の慰謝料を請求するために、弁護士に代理人を依頼することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、民事事件や損害賠償の請求に関するご相談を全面的に受け付けております。
ペットを連れ去った犯人に対する慰謝料の請求を検討している方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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