「銀行法」とはなにか? 違反した場合に逮捕される可能性は?

2023年12月18日
  • 財産事件
  • 銀行法違反
「銀行法」とはなにか? 違反した場合に逮捕される可能性は?

令和5年6月1日、神奈川県警察国際捜査課と高津警察署は、地下銀行を営みベトナムに不正送金したとして、銀行法違反と組織犯罪処罰法違反の疑いでベトナム国籍の男女を逮捕したと発表しました。

「銀行法」とは、銀行業を営む者に対する規制を行う法律です。銀行業務の公共性に鑑み、特別な免許を持たなければ銀行業を行うことはできないとされています。無許可・無登録で海外への送金をすると銀行法違反として処罰の対象となる可能性があります。

本コラムでは、銀行法の概要や銀行法違反として逮捕される可能性について、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。

1、銀行法とは

まず、銀行法に関する基本的な事項から解説します。

  1. (1)銀行法の概要

    銀行法とは、銀行の健全な経営と預金者の保護を主な目的として、さまざまなルールを定めた法律です。

    一般的な企業では、どのような業態で、どのような取引を行うのかについて、企業の自由に委ねられていることから、特別な業種でない限り、法律によって業務が厳しく規制されているわけではありません。
    しかし、銀行は公共性を有する企業であるため、銀行法によってさまざまな規制が課されているのです

  2. (2)銀行法が定める基本的なルール

    ① 銀行業を行うには免許が必要
    銀行とは、内閣総理大臣の免許を受けて銀行業を営む者と定義されています(銀行法2条)。すなわち、誰でも銀行業を行うことができるわけではなく、免許が必要になります

    「銀行業」とは、具体的には以下の業務を行うことを指します。

    • 預金、定期積金の受け入れと資金の貸付、手形の割引の両方を行うこと
    • 為替取引を行うこと(顧客の依頼を受けてお金を送ること)


    なお、消費者金融などは、お金の貸し付けを行うものの、お金を預かることはしていないため、銀行業にはあたりません。

    ② 銀行という名称を用いること
    銀行は、商号のなかに「銀行」という文字を使用しなければならず、銀行以外が「銀行」の名称を用いることはできません(銀行法6条)。
    すなわち、免許を受けて銀行業を行う場合には、必ず「銀行」と名乗らなければならないということです

    なお、信用金庫や信用組合などの金融機関も銀行と同様の業務を行っていますが、信用金庫は「信用金庫法」で、信用組合は「中小企業等協同組合法」で規制されており、会員資格や業務範囲が異なっています。

    ③ 一定の資本金が必要
    会社を設立する場合には、資本金の最低額が設けられていませんので、資本金1円であっても会社を設立することができます。

    しかし、銀行法では、預金者等の保護のために、資本金が20億円以上なければ銀行を設立することができないとされています(銀行法5条、銀行法施行令3条)
    このように銀行の公共的な性格から、一定規模以上の組織であることが求められています。

2、銀行法違反に問われうるケースと罰則

以下では、銀行法で規制されている行為と、違反した場合の罰則について説明します。

  1. (1)無免許での銀行営業(地下銀行)

    地下銀行とは、銀行法に基づく免許を持たずに、不正に海外に送金する事業をいいます
    地下銀行では本人確認が不要なため、主に不法滞在の外国人労働者などが犯罪や不法就労で手に入れた資金を母国に送金する手段として利用されています。

    お金を送金することを一般的に「為替取引」といいますが、為替取引を行うことができるのは、銀行などの特別な免許・許可を受けたものに限り認められています。
    正規の銀行を利用して海外送金をするには、パスポートなどにより本人確認を行う必要があるため、不法就労者や不法滞在者では利用することができません。
    そこで、正式な免許を持たない「地下銀行」と呼ばれる組織により、海外送金が行われているのです。

    地下銀行は、銀行法に違反する違法な為替取引です。地下銀行を営んだ者に対しては、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらが併科されます(銀行法4条、61条1項)。

  2. (2)無許可での銀行代理業

    銀行代理業とは、銀行のために以下のいずれかの営業を行うことをいいます。

    • 預金または定期積金の受け入れを内容とする契約締結の代理または媒介
    • 資金の貸し付けまたは手形割引を内容とする契約締結の代理または媒介
    • 為替取引を内容とする契約締結の代理または媒介


    このような銀行代理業を営む場合には、内閣総理大臣の許可を受けなければなりません(銀行法52条の36第1項)。
    許可を得ずに銀行代理業を営んだ場合には、銀行法違反となり、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらが併科されます(銀行法61条1項)。

  3. (3)無登録での金融商品の販売・勧誘業務

    金融商品取引法では、顧客からファンドへの出資を募ったり、ファンド財産の投資や運用事業を行ったりする人に対しては、金融庁への登録を義務付けています(金融商品取引法29条)。
    出資者の募集や出資を受けた財産の運用を行うこと自体は、銀行業ではありませんので、銀行法での規制がありません。
    しかし、これらの業務を行う際には、投資家に不利益が生じる可能性があることから、金融商品取引法の規制対象となっています。

    無登録でこのような金融商品取引業を行った場合には、金融商品取引法違反となり、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはこれらが併科されます(金融商品取引法197条の2第10号の4)。
    さらに、法人や団体に対しても5億円以下の罰金が科されるのです(金融商品取引法207条1項2号)。

3、銀行法違反で逮捕される可能性は?

以下では、銀行法違反で逮捕される可能性や、逮捕された後の手続きの流れを解説します。

  1. (1)銀行法違反で逮捕される可能性はある

    罪を犯したとしても、すべてのケースで逮捕されるわけではありません。
    逮捕は身柄拘束という重大な権利侵害を伴う行為であるため、逮捕が認められているのは以下の要件を満たした場合に限られます。

    • 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること
    • 逃亡のおそれまたは証拠隠滅のおそれがあること(逮捕の必要性があること)


    銀行法違反の疑いがある事案では、複数の顧客との間で違法な為替取引などが行われていることから、関係者が複数いて、不正送金の額も大きくなる傾向にあります。
    このような事案については、関係者への働きかけなどによる証拠隠滅のおそれが高いとみなされて、逮捕される可能性があります。

    以上のことから、銀行法に違反してしまったら逮捕される可能性は高いといえます

  2. (2)銀行法違反で逮捕された場合の手続きの流れ

    銀行法違反で逮捕された場合は、以下のような流れで進んでいきます。

    1. ① 逮捕
      警察により逮捕された場合には、警察署内の留置施設で身柄を拘束され、警察による取り調べを受けることになります。

      警察は、逮捕後48時間以内に、検察官に事件を引き継がなければなりません。 これを「検察官送致(送検)」といいます。

    2. ② 勾留
      警察から事件の送致を受けた検察官は、被疑者の取り調べを行い、勾留請求をするかどうかの判断をします。
      被疑者の身柄を引き続き拘束する必要性がある場合には、送致から24時間以内に裁判官に勾留請求を行います。

      勾留請求が認められた場合には、その後10日間の身柄拘束を受けることになります
      勾留は、延長が認められていますので、勾留延長が認められるとさらに10日間の身柄拘束を受けることになります。

    3. ③ 訴または不起訴の判断
      検察官は、捜査の結果をふまえて、被疑者を起訴するか不起訴にするかを判断します。

      検察官が起訴すべきであると判断した場合には、裁判所に公判請求を行い、刑事裁判が開始します
      他方、不起訴にすべきと判断した場合には、その時点で事件が終了となり、被疑者の身柄は解放されます。

4、警察から連絡が来たら弁護士に相談

警察から連絡が来たときは、すぐに弁護士に相談することが大切です。
以下では、弁護士に相談することのメリットを解説します。

  1. (1)今後の対応についてアドバイスが得られる

    警察から突然連絡が来ても、ほとんどの方は、どのように対応すればよいかわからず、不安な気持ちで過ごすことになるでしょう。
    警察からの連絡内容にもよりますが、任意の出頭を求められた場合には、犯罪の嫌疑をかけられている状態となるため、適切な対応をしなければ逮捕など身柄拘束を受ける可能性もあります。

    今後予想される事態に適切に対応していくためにも、まずは弁護士に相談してください
    弁護士からは、今後の刑事手続きの流れや注意点についてアドバイスを受けることができます。

  2. (2)逮捕・勾留中でも面会に来てもらえる

    逮捕・勾留中は、警察からの取り調べを受けることになりますが、取り調べで不利な内容を供述してしまい、それが調書化されると、裁判での証拠になります。
    このような不利な自白を内容とする調書の内容は、後日に撤回することが困難であるため、取り調べにはしっかりと対応することが重要です。

    弁護士であれば、逮捕・勾留中でも面会に来て、その都度取り調べに関してアドバイスすることができます
    また、身柄拘束されて不安な状態でも弁護士から励ましを受けられて、精神的な負担を軽減することもできるでしょう。

5、まとめ

銀行法では、預金者に不利益が及ぶことがないようにするために、銀行業を営む際には免許や許可を要件としています。
そして、これらの免許や許可を得ずに銀行業を営んだ場合には、銀行法違反として処罰の対象となります。

銀行法違反となる行為をした場合には、警察に逮捕される可能性もあるため、早めに弁護士に相談することが大切です
警察から銀行法違反の嫌疑をかけられている方や、逮捕された被疑者のご家族の方は、まずはベリーベスト法律事務所でご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています