保釈とは? 身柄解放の要件や釈放との違いを弁護士が解説
- その他
- 保釈
- 釈放
- 違い
小田原警察署は、ホームページ上で毎月の犯罪発生状況を公表しています。令和3年4月末の情報によると、小田原市内では強盗1件を含む、193件の犯罪が発生していることがわかります。
刑事事件を起こして逮捕された場合、有罪か無罪かといった判決が言い渡されるまで身柄を拘束されると考えるかもしれません。しかし、著名人などが逮捕された場合は「保釈された」というニュースが流れることがあります。『保釈』という用語を聞くと、詳しい意味を知らなくても「身柄拘束が解かれる」「自由になる」といったことをイメージするのではないでしょうか。
では、どのようなケースであれば保釈の対象となるのでしょうか。一般の人であっても保釈される可能性はあるのでしょうか。また、高額の保釈金を支払わなければならないのかといった疑問を感じている方も多いはずです。
そこで、本コラムでは『保釈』とはどのような制度なのか、保釈と似た言葉として『釈放』がありますが、どのような点で異なるのかなどについて小田原オフィスの弁護士が解説します。
1、逮捕されるとどうなるのか? 刑事手続きの流れ
刑事事件を起こして逮捕されると、その後はどのような手続きを受けるのでしょうか。
-
(1)警察による逮捕
警察に逮捕されると、その場で直ちに身柄を拘束されます。
自由な行動は大幅に制限され、家族や会社に電話をかけて状況を知らせるなど、外部へ連絡することも難しくなります。
逮捕されると、警察署内の留置場に身柄を置かれ、担当の警察官から取り調べを受けます。この時点での取り調べは、逮捕事実に関することや生い立ち・経歴などの身上に関することに限られるのが一般的です。警察は逮捕から48時間以内に、逮捕した被疑者の身柄と関係書類を検察官に引き継ぎます。 -
(2)検察官への送致
警察が逮捕した被疑者の身柄と関係書類を検察官に引き継ぐ手続きを『検察官送致(そうち)』といいます。単に『送致』と呼ぶのが一般的ですが、ニュースなどでは略称として『送検』といわれることもあります。
送致を受けた検察官は、警察から引き継がれた関係書類に目を通した上で、引き続き被疑者の取り調べを行います。検察官は、送致を受けた時点から24時間以内に、引き続き、身柄を拘束する必要があるかを判断します。
身柄拘束が必要だと判断した場合、検察官は裁判官に対して身柄拘束の延長を求める請求をします。これを『勾留請求』といいます。 -
(3)勾留による身柄拘束
裁判官が勾留を認めると、原則10日間の身柄拘束の延長が認められます。また、10日間で必要な捜査が終結しない場合は、さらに10日間まで延長請求が可能です。
つまり、逮捕から勾留が満期を迎える日までの期間は、最長で23日間にも及びます。これだけ長い間にわたって帰宅することも会社・学校へ通うことも許されなければ、社会生活への影響は甚大なものになるでしょう。 -
(4)検察官による起訴
勾留が満期を迎える日までに、検察官は起訴・不起訴を判断します。
20日間を過ぎての勾留延長は認められないので、この時点で起訴・不起訴の最終判断が下されることになります。
検察官が起訴に踏み切れば刑事裁判へと移行し、不起訴処分を下せば釈放となります。 -
(5)刑事裁判
検察官が起訴した時点で、被疑者の立場は『被告人』へと変わります。
通常、刑事裁判が開かれるのは起訴から1~2か月が経過したころで、さらに2回目以降の公判も1か月に一度程度しか開かれません。結審までには数回の公判が開かれるので、判決が下されるまでには3~6か月程度の時間がかかる可能性があります。
2、保釈と釈放の違い
では、保釈とはどのような制度なのでしょうか?釈放の意味や要件を確認しましょう。
-
(1)保釈とは
保釈とは、勾留されている被告人の身柄拘束を一時的に解除する制度です。
罪を犯せば逮捕され、身柄を拘束されるというのは当然のように感じるかもしれません。しかし、わが国の刑事制度には『推定無罪の原則』があり、誰であっても有罪判決が確定するまでは犯罪者として扱われない権利をもっています。
つまり、警察に逮捕された、検察官に起訴されて刑事裁判の被告人になったという状況では、罪を犯したと決めつけることはできないのです。
ところが、逮捕・勾留によって身柄を拘束されている被疑者にとって、さらに刑事裁判を維持するために被告人として勾留されることは、著しい不利益となります。家族が離散してしまう、仕事や学校を辞める事態になるといった状況も考えられるでしょう。
いまだ犯人だと断定することができない被告人が著しい不利益を被らないために、一定の要件を満たす場合に限り一時的に身柄拘束が解かれる『保釈』が存在しているのです。 -
(2)保釈の要件
保釈は、大きく分けると3つの種類があります。
- 権利保釈(刑事訴訟法第89条)
- 裁量保釈(同法第90条)
- 義務的保釈(同法第91条)
まず『権利保釈』とは、被告人・弁護人・法定代理人・保佐人・配偶者・直系親族・兄弟姉妹からの請求によって認められる保釈です。これらの請求権者からの求めがあれば、裁判所は保釈を認めなければなりません。
ただし、刑事訴訟法第89条によると、次に該当する場合は保釈が認められません。- 死刑・無期・短期1年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した場合
- 過去に死刑・無期・長期10年を超える懲役・禁錮にあたる罪で有罪の宣告を受けたことがある場合
- 常習として長期3年以上の懲役または禁錮にあたる罪を犯した場合
- 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合
- 被害者や事件の関係者、その親族などに対して、身体・財産に危害を加える、または畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由がある場合
- 被告人の氏名または住居がわからない場合
これらの要件に該当してしまい、権利保釈が認められない場合でも、さまざまな事情を考慮して裁判所が保釈を認めることがあります。これが『裁量保釈』です。
刑事訴訟法第90条に規定されており、条文に「職権で保釈を許すことができる」と明示されていることから『職権保釈』とも呼ばれます。
もうひとつの『義務的保釈』は、刑事訴訟法第91条に規定されており、勾留による拘禁が不当に長くなったときに認められるものです。 -
(3)保釈金の納付が必要
保釈が認められるためには、裁判所への『保釈金』の納付が必要です。
保釈金は、公判への出頭を確保するための保証金としての性格をもっています。
通常は刑事裁判が終結した段階で還付されますが、正当な理由なく公判に出頭しない、逃亡・罪証隠滅をはたらいた、被害者などに危害を加えた、住居制限などに違反したなどの場合は、没取されてしまいます。
有名人・著名人などが事件を起こして保釈されたといったニュースに注目すると、数千万、数億円といった高額な保釈金を納付したというケースが目立ちますが、保釈金を決定する上で重視されるのは、基本的には被告人の経済力です。
芸能人・会社経営者・資産家など、経済力がある人物が罪に問われた場合は、少額を納付させても保証の効果がないため、高額の保釈金納付を求められることが多いようです。また、保釈金に相場はなく、経済力や事件の様態などを総合的に鑑みた上で、金額が決定します。
なお、保釈金を支払えない被告人のために、保釈金の立て替えをサポートする『日本保釈支援協会』なども存在します。 -
(4)釈放との違い
保釈と紛らわしいのが『釈放』です。
釈放とは、一時的な身柄の解放ではなく完全な解放を意味します。釈放されるのは、次のようなタイミングが考えられます。- 警察に逮捕されたものの、証拠が不十分なため釈放された
- 勾留中に被害者との示談が成立し、検察官が不起訴処分を下して釈放された
- 刑事裁判で無罪判決を受けたので釈放された
- 執行猶予つきの懲役を言い渡された、または罰金を言い渡され即日納付して釈放された
なお、釈放されても事件が完全に終結したとはいえないケースも存在します。
たとえば、逮捕されたものの、釈放されて在宅事件に切り替えられたといったケースや、勾留決定の不服申し立てが認められたというケースでは、釈放されても任意の取り調べを受けることになり、その後、起訴される可能性もあります。
3、保釈請求のタイミング
保釈請求が可能な期間は、検察官の起訴によって『被告人』となったときから、刑事裁判の判決が下されるまでの間です。逮捕・勾留の段階、つまり『被疑者』と呼ばれている段階では、保釈を請求する権利が与えられていません。
可能な限り早い段階で保釈を請求すれば、それだけ身柄解放が早まり、社会復帰という面でも有利であるのは確実でしょう。そのためにも、起訴されたら直ちに保釈請求を行うのが最善といえます。また保釈金の準備も事前に整えておき、保釈が決定後、すぐに納付できるようにしておくことも大切です。
4、保釈のメリット
保釈が認められれば、被告人はつらい身柄拘束から心身ともに解放されることになります。
精神的な重圧から解放されるという面のほかにも、保釈を活用することには次のような利点があります。
-
(1)素早い社会復帰が可能
保釈が認められれば、在宅のまま刑事裁判を受けることになります。つまり、家族のもとへ帰って自宅で生活しながら、会社や学校へ通うことも可能になるのです。
逮捕・勾留によってすでに23日もの長きにわたって社会生活から隔離されているため、さらに刑事裁判の結審の日まで身柄を拘束されていると、解雇・退学といった不利益を受けるおそれがあります。保釈によって身柄拘束の期間を最短に抑えることで、これらの不利益を回避し、素早い社会復帰が期待できるでしょう。
なお、たとえ有罪判決が下されたとしても、執行猶予つきの懲役や罰金刑であれば、刑務所に収監されることはありません。事件後の影響を最小限に抑えるという意味でも、保釈は非常に有意義だといえます。 -
(2)刑事裁判への準備を整えられる
保釈されて自由な行動が許されるようになれば、弁護士との打ち合わせも十分に確保できます。綿密なレクチャーを受けることができれば、公判の場でも焦らず余裕をもって対応できるでしょう。
-
(3)服役前の家族へのケアが可能
実刑を免れない状況であれば、保釈によって身柄を解放されている時間が、服役前に家族と過ごすことのできる最後の機会になるでしょう。家族へのケアや身辺整理に時間を費やすことができるので、服役中の家族の生活や服役後の社会復帰に向けた準備も整えられるはずです。
5、まとめ
保釈とは、被告人の身柄を一時的に解放する制度です。
保釈を利用しない、または保釈が認められない場合は、刑事裁判が結審する日まで身柄拘束を受け続けることになります。また、実刑判決を受けてしまえば、そのまま刑務所に収監されてしまうため、家族へのケアや身辺整理もままならない状態で服役しなくてはなりません。
家族や親しい人が逮捕・起訴されて『保釈が可能なのか?』と疑問を抱えている方は、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスにご相談ください。
保釈が認められる可能性や要件についてのアドバイス、保釈請求のサポートなど、刑事事件の解決実績が豊富な弁護士が全力でお手伝いします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています