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刑の一部執行猶予制度とは? 要件や対象となり得るケースを解説

2022年06月28日
  • その他
  • 刑の一部執行猶予
刑の一部執行猶予制度とは? 要件や対象となり得るケースを解説

神奈川県警察では、ホームページ上で違法薬物事犯の検挙人員などの統計とともに、薬物乱用防止に向けた取り組みが紹介されています。小田原警察署のホームページでも薬物乱用防止を呼びかける情報を掲載しており、違法薬物事犯の検挙と予防に向けて力を注いでいる状況がうかがえます。

違法薬物事犯は極めて再犯性が高い犯罪ですが、再犯防止のためには刑罰を科すだけでなく、更生に向けた取り組みが重要となります。その対策のひとつとして、平成28年に「刑の一部執行猶予制度」が導入されました。

本コラムでは「刑の一部執行猶予制度」の概要や対象となる要件、従来から存在している全部執行猶予との違いなどについて、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。

1、刑の一部執行猶予制度とは?|概要や制度の趣旨

刑の一部執行猶予制度は、平成28年に新設された制度です。
実際に運用が始まってまだ時間がたっていないため、どのような制度なのかをご存じでない方も多いでしょう。

以下では、「刑の一部執行猶予制度」の概要や制度の趣旨について解説します。

  1. (1)刑の一部執行猶予制度の概要

    わが国の法制度では、死刑・懲役・禁錮・罰金・拘留・科料の6種類の刑罰があります。
    このなかで、懲役・禁錮・罰金については、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の言い渡しを受けたときに限り、情状によって、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予できるとされていました。
    これが「刑の執行猶予」の基本形であり、「刑の全部執行猶予」と呼ばれる制度です。

    これに対して「刑の一部執行猶予」とは、3年以下の懲役もしくは禁錮の言い渡しを受けたときで一定の要件を満たした場合に限り、1年以上5年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予できる制度です

    たとえば、刑の一部執行猶予が認められた場合は「懲役2年に処する、その刑の一部である懲役6カ月の執行を2年間猶予する」といった判決が言い渡されます。
    すると、一部執行猶予が認められなかった1年6カ月は実刑となって刑務所に収監され、さらに6カ月間は2年間の執行猶予期間となる、という仕組みです。

    なお、実刑後の執行猶予期間中は保護観察を付されることがあります。
    執行猶予期間中の保護観察には、性犯罪者処遇プログラム・薬物再犯防止プログラム・暴力防止プログラム・飲酒運転防止プログラムなど、さまざまな専門的処遇プログラムが実施されます。

  2. (2)なぜ一部執行猶予が必要なのか?

    刑の一部執行猶予制度が創設されたのは、従来どおりであれば実刑が相当だと判断されていた事例に、新たな選択肢を設けるためです。

    令和2年版の犯罪白書によると、令和元年時点で刑務所に入所している受刑者のうち、過去に刑務所に入所した経歴のある再入所者の割合は男性で58.3%、女性で49.8%でした。
    このような状況をみると、再犯の防止には刑務所内での矯正教育だけでなく、出所後の社会生活のなかでも改善更生を目指した処遇が必要だといえます。

    ところが、従来の制度では刑期のうち全部を実刑とするか、あるいは全部の執行を猶予するかの2択でしかなかったため、より実行の高い刑罰として一部執行猶予制度が創設されたという経緯があるのです。

    したがって、「実刑か、全部執行猶予か」の判断に迷った際の中間的な刑罰として創設されたものではないことに注意してください

2、「刑法」と「薬物法」で扱いが異なる

刑の一部執行猶予制度は、対象となっている事件が「刑法」に規定されている犯罪か、それとも「薬物法」の対象となっている犯罪かによって扱いが異なります。

  1. (1)刑法上の扱い

    刑法第27条の2第1項は、刑の一部執行猶予制度の対象を明確に規定しています。
    具体的には、以下の通りです。

    A 言い渡される刑罰が3年以下の懲役または禁錮である
    かつ
    B 次のいずれかに該当し、再犯の防止に必要かつ相当である
    • 以前に禁錮以上の刑に処せられたことがない
    • 以前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された
    • 以前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行が終わった日またはその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない


    ここで挙げた対象に合致しない場合には、刑の一部執行猶予は認められないのです

  2. (2)薬物法上の扱い

    刑の一部執行猶予制度は、違法薬物事犯の再犯防止に向けて「薬物法」による特例を認めています。
    薬物法とは、正確には「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」といい、まさに薬物事犯を対象に刑の一部執行猶予を付する目的で設けられた法律です。

    対象となるのは大麻・覚醒剤(覚せい剤)・麻薬などの単純所持や使用にあたる罪を犯した者であり、言い渡される刑罰が3年以下の懲役または禁錮であるという点に差はありません。
    ただし、薬物法による特例が適用されると、前科に関する規制がなくなります。
    つまり、「以前に禁錮以上の刑に処せられた」「前回の刑罰から5年が経過していない」といった場合でも、刑の一部執行猶予が可能なのです。

    ただし、この特例は薬物事犯を優遇したものではありません。
    なぜなら、薬物事犯の場合には、一部執行猶予の期間中に必ず保護観察が付されるからです。
    一部執行猶予期間における保護観察は厳格な管理を受けるため、受刑者にとっては決して楽なものではないと考えたほうがよいでしょう

3、一部執行猶予の対象となる要件

刑の一部執行猶予が適用されるのは、刑罰・前科の要件に加えて、以下に解説する4つの要件に合致する場合に限られます。

  1. (1)再犯のおそれがあること

    刑の一部執行猶予制度がもつ最大の目的は「再犯の防止」であるため、再犯のおそれがあることは重要な要件となります。
    「再犯のおそれがある」場合に一部執行猶予が認められるということは、言い換えれば「再犯のおそれがない」場合には一部執行猶予は認められない、ということです。

    ここで、「再犯のおそれがある者に一部執行猶予を認めると、再犯の恐れのない者よりも優遇していることになり、おかしいのではないか」といった疑問を抱く方もいるでしょう。
    しかし、刑の一部執行猶予期間における保護観察は極めて厳格であるため、必ずしも「優遇されている」とはいえないのです

  2. (2)1年以上の社会内処遇期間を確保しておこなう有用な処遇方法が想定できること

    刑の一部執行猶予制度は、刑務所という「施設内」での処遇と、執行猶予期間中の「社会内」での処遇の連携によって再犯防止を目指すものです。
    つまり、施設内処遇と社会内処遇の連携によって再犯防止が実現する可能性が高い場合に限って、刑の一部執行猶予が認められることになります。

    この点は専門的処遇プログラムに頼るところが大きいのですが、一般的には、次のような犯罪が主な対象となると考えられます。

    • 性犯罪
    • 薬物事犯
    • 暴力事犯
    • アルコール依存による飲酒運転事犯
  3. (3)その処遇を実効的に実施できること

    有用な社会内処遇が想定できても、その効果が期待できなければ意味がありません。

    具体的には、「本人の更生意欲は旺盛か」「専門的処遇プログラムを受講する意欲があるか」「更生の環境や家族の支援体制は整っているか」「暴力団などとの関係は解消しているか」といった点が重視されることになります。

  4. (4)犯情の軽重

    刑の一部執行猶予制度を明記している刑法第27条の2第1項には要件として「犯情の軽重」が明記されています。

    たとえば、連続的な性犯罪事犯などでは、たとえ社会内処遇が有用であっても、一部執行猶予によって社会内での更生を目指すことは、多くの国民に負担をかけることになるでしょう。
    国民の理解が得られないような悪質な事件について、刑の一部執行猶予が適用される可能性が低くなってしまうのです

4、「刑の全部執行猶予」や「釈放」との違い

以下では、刑の一部執行猶予制度と「刑の全部執行猶予」や「釈放」との違いについて整理します。

  1. (1)刑の全部執行猶予との違い

    刑の全部執行猶予が適用されると、言い渡された懲役・禁錮の執行が全期間にわたって猶予されます。
    刑の一部執行猶予のように、主な刑期を刑務所で過ごすことはありません。
    また、刑の一部執行猶予では薬物事犯に限り必ず保護観察が付されますが、全部執行猶予では、薬物事犯であっても保護観察がつかないこともあります。

  2. (2)釈放との違い

    実刑判決を言い渡された場合は、刑期を満了すると刑の執行が終わるので「釈放」されます。
    ところが、刑の一部執行猶予では、実刑期間を満了してもまだ執行猶予期間が残っているため、満期出所による釈放のように「刑が終わった」とはいえないのです

    なお、実刑判決を受けた場合でも、刑期が満了する前に「仮釈放」されることがありますが、刑の一部執行猶予における実刑部分でも仮釈放を受ける可能性があります。

    仮釈放中は更生保護法第40条の規定に従って必ず保護観察が付されますが、これは刑の一部執行猶予の場合でも同様です。
    判決の言い渡しにおいて執行猶予の期間に保護観察が付されていない場合でも、実刑部分の仮釈放を受けた場合は保護観察が付されることになります。

5、まとめ

刑の一部執行猶予制度は、「再犯の防止」を最大の目的とするものです。
「処分の軽減」という性格をもっているわけではないため、執行猶予の期間中であっても、厳しい保護観察を受けることになります。

とはいえ、刑務所に収監されて社会から隔離される期間が短くなるのは大きな利点であり、社会復帰も早まる可能性が高まります。
特に違法薬物事犯で検挙されて実刑が予想されるケースでは、再犯を予防する観点からも、刑の一部執行猶予の適用を目指したほうがよいでしょう。

神奈川県で違法薬物事犯などの事件を起こしてしまい、厳しい刑罰に不安を感じている方は、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスにまでご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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