認知症の親の財産を使い込み? 調査方法と疑われたときの対処法

2024年03月26日
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認知症の親の財産を使い込み? 調査方法と疑われたときの対処法

亡くなった方(被相続人)が生前に認知症などにより判断能力を失っていた場合、同居の親族や介護をしていた親族による財産の不正な使い込みが発覚することがあります。

亡くなった方の現預金や不動産、株式などはすべて相続の対象となりますが、これらが不正に隠匿・消費されたりすると、相続財産の範囲が分からなくなり、相続トラブルに発展する可能性があります。

本コラムでは、認知症だった親の財産の調査方法や、遺産の不正な使い込みがあった場合の対処法、逆に不正な使い込みの疑いをかけられた場合にすべきことなどについて、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。

1、認知症だった親の財産調査の方法

  1. (1)金融機関の通帳・取引履歴を調査する

    認知症の親の財産が不正に使い込まれているのではないかと思う場合には、親が保有している銀行口座の通帳や取引履歴を確認し、具体的な金銭の流れを把握しましょう。

    同居の親族によって親の財産が使用されているからといって、必ずしも不正な使い込みであるとは限りません。親の生活費や必要経費の支払いに充てるために預金の引き出しや振り込みが行われている場合もあります。

    そのため、親族による不正な使い込みが疑われる場合には、預貯金が引き出された時期や金額を確認し、本当に不正な使い込みであるといえるのかどうかを確認する必要があるのです

    親の存命中には、記帳された預金通帳を確認することで出金の時期や金額を把握することができます。
    またすでに親が亡くなっている場合には、法定相続人であることを証明すれば各金融機関に対して指定期間の取引履歴を開示するように請求することができます。したがって、親と同居していた親族が預金通帳や取引履歴の開示を拒否する場合には、各金融機関に請求することができます。

    引き出されている金額が親の食費などの生活費を賄うために必要な範囲にとどまる場合や、亡くなってからの引き出しであっても病院や入居施設への支払いや葬式費用に当てられている場合には、不正な使い込みということはできません。

    しかし、以下のような特徴がある場合には、親の意向に基づく引き出しではなく、親族が親の財産を不当に出金している可能性が疑われます。

    • 連日のようにお金が引き出されている
    • 毎回高額な金額が引き出されている
    • 親が亡くなる直前や直後に集中して引き出されている
    など
  2. (2)財産の不正な使い込みが疑われる時期の親の判断能力を調査する

    親の財産が減少しているとしても、それが親の意向に従っている場合には不正な使い込みとはいえません。
    そのため、財産の減少時において、すでに親の意思能力や認知能力が失われていた場合には、親の意向に従っていたとは言いにくくなります。

    したがって、財産の不正な使い込みが疑われる時期の親の判断能力の有無を調査することが重要となります。
    具体的には、財産の引き出し時点で親の判断能力が失われていた場合や、すでに親が亡くなっていた場合には、財産の不正な使い込みの可能性があります

    ただし、不正な使い込み時点での親の判断能力を確認することは簡単ではありませんので、医師の診断や、入通院記録、本人の発言や言動などを手掛かりに主張していくことになります。

2、不正な使い込みがされている可能性が高いときすべきこと

  1. (1)相続人同士で話し合う

    親の財産が不正に使い込まれている可能性が高い場合であっても、いきなり裁判手続に乗り出すのは得策ではありません。当事者同士で問題を共有して解決できる可能性がある場合には、まずは相続人同士で話し合うことが重要でしょう

    親の財産の使い込みをする親族は、使い込まれた財産も相続の対象となり不当利得返還請求や損害賠償請求の対象となることを、適切に理解していない可能性があります。
    そこで、親の財産から高額な出費がある場合、その出費に対する合理的な説明を求め、不正な使い込みである場合は、使い込まれた金額相当額を遺産として返還するように求めることになります。

  2. (2)親が存命中の場合には成年後見の申し立てを行う

    親が認知症であることを利用して同居の親族が親の財産を不正に使いこんでいる場合、親が存命中であれば、成年後見の申し立てをすることができます。
    成年後見制度とは、本人の判断能力が不十分である場合に家庭裁判所が個々の事案に応じて成年後見人を選任し、本人を法律的に支援・保護する制度です
    成年後見人が選任された場合、不動産や預貯金の管理、遺産分割協議などの相続手続などの「財産管理」や、介護・福祉サービスの利用契約や施設入所・入院の契約締結、履行状況の確認などの「身上監護」については、本人に代わって選任された後見人が行うことになります。
    成年後見人には親族が選任されることもありますが、判断能力が不十分となったご本人の財産が使い込まれているおそれがあるケースでは専門家である第三者が選任される可能性が高いでしょう。

  3. (3)使い込んだ親族に返還を請求する

    預貯金の使い込みをしていた親族に対して、金銭の返還や損害賠償を請求することができます。
    財産の使い込みに対しては、相手方に次のような法的な請求をすることができます

    • 不当利得返還請求
    • 不法行為に基づく損害賠償請求


    ご本人が存命中で認知能力に問題がない場合には、ご本人から不正な使い込みをした親族に対して上記のような請求をしていくことが基本になります。しかし、ご本人が認知症で判断能力が失われてしまっている場合には、他の親族が成年後見の申し立てを行い、成年後見人が本人に代わって請求していくことになります。

    すでにご本人が亡くなっている場合には、被相続人の請求権を相続した相続人が上記請求を行うことができます。
    相続開始後、預貯金については法定相続分に応じて法定相続人が承継することになりますので、実際に法定相続分に満たない預貯金しか得られなかった場合には、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求が可能となるのです。

  4. (4)遺産分割調停の中で解決する

    相続財産が減少していることが財産の不正な使い込みによるものである場合、その分も遺産に含めて遺産分割協議をする必要があります。

    特定の相続人による不正な使い込みがある場合、まずは当事者間の遺産分割協議において話し合いをします。当事者間での話し合いでは解決できない場合には、遺産分割調停・審判を申し立てることができます
    調停・審判においては、被相続人の生前に不正に使い込まれた財産につき、不当利得や不法行為債権として分割対象に加えたうえで、遺産分割を行うべきであるかを話し合うことができます。
    また、相続開始後に不正に使い込まれた遺産については、処分された財産が遺産分割時に存在するものとしてみなして、遺産分割を行うべきであるかを話し合うことができます。
    ただし、当事者間での話し合いで解決できなかった場合には、民事訴訟によって不当利得や不法行為債権の有無、遺産の範囲について確定することが必要です。遺産分割調停・審判では家庭裁判所の判断で相続財産の範囲を決めることはできないためです。
    なお、遺産分割審判での事実認定には拘束力が生じないため、その判断に不服がある当事者は、改めて民事訴訟を提起することは妨げられません。

3、財産の不正な使い込みを疑われたらすべきこと

  1. (1)疑っている側の主張を把握する

    まずは、不正な使い込みを疑っている相続人の主張を正確に把握する必要があります。
    「いつ・いくらの」財産について不正な使い込みであると主張しているのかを特定したうえで反論をする必要があります。
    不正な使い込みを主張されても、時期や金額について一切特定されていない場合には、そもそも預貯金の引き出しを行っていないと反論できる可能性もあります。

  2. (2)財産の移動について合理的な説明をする

    被相続人の依頼にしたがって預貯金を引き出した場合や被相続人の生活費など必要経費にあてるために引き出した場合など、合理的な理由がある場合には、そのように説明すれば足ります。
    当時の被相続人の判断能力の状態や預金通帳の管理状況、被相続人の承諾・同意などがあったことなどを具体的に説明する必要があります

  3. (3)不正な使い込みではない客観的な資料を提示する

    不正な使い込みではないことを主張する場合には、財産の使途について明らかにできる領収書やレシートなど客観的な資料を示して説明することが重要です
    生前贈与などを主張する場合にも、贈与契約書があることが望ましいですが、親族間の贈与の場合には契約書を作成しないことも多くあります。

    客観的な資料が存在しない場合には、できるだけ具体的に事情を説明する必要があります。不正な使い込みではないと説得するためには、「なぜ、この時期に、これだけの金額の贈与を受けたのか」ということを合理的に説明できる必要があります。

4、相続争いになりそうなときは弁護士に相談を

遺産の使い込みの問題で相続争いに発展しそうな場合には弁護士に相談することをおすすめします。

訴訟になる以前から弁護士に依頼しておくことで、他の相続人との交渉や遺産分割協議についてもすべて任せておくことができます。

こちらの主張が認められるための有利な証拠の収集方法や、適切な主張書面の作成方法についても、すべて弁護士に相談できるため安心です。
たとえば、交渉段階と訴訟段階で矛盾した主張をしてしまうと、主張に一貫性がないとして不利な認定がされてしまう可能性があります。
そのため、できるだけ早い段階から弁護士を入れて話し合いを行う方がメリットは大きいと言えるでしょう

5、まとめ

本コラムでは、認知症の親の財産が不正に使い込まれていた場合や、使い込みを疑われた場合の対処法などについて解説してきました。

ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスでは遺産の不正な使い込みの返還を求める側・求められた側のどちらについても対応することが可能です。

当事務所には相続トラブルの解決実績が豊富な弁護士が在籍しておりますので、相続についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています