代表相続人の役割とは? 相続人の誰がなるべきなのか
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- 代表相続人とは
令和3年に小田原税務署で相続税の申告を行った相続人の人数は1714人でした。
相続手続のなかには、相続人全員で行わなければならないものもあります。しかし、「相続人の人数が多い」「遠隔地に住んでいる相続人がいる」「高齢の相続人がいる」といった事情がある場合には、相続人全員が手続に参加することは難しいでしょう。
このような場合には、相続人の1人が代表して手続を行う「代表相続人」を指定すると、手続の手間を省力化できる可能性があります。本コラムでは、遺産相続における「代表相続人」について、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。
1、代表相続人とは|適している人は
まずは、「代表相続人」とは何をする人なのか、代表相続人にはどのような人を選べばいいのか、という点を解説します。
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(1)代表相続人は何をする人?
代表相続人とは、相続人全員で行う必要がある手続に関して、主に金融機関や役所で行う手続を代表して行う人のことをいいます。
法律上に定義されたものではなく、手続によって「相続人代表者」や「相続代表者」などと呼ばれることもあります。
代表相続人は相続人の「代表」とはいっても特別な権限があるわけではなく、相続人全員で合意した内容を実現するための手続を行うために選ばれる存在であるため、イメージとしては「連絡役」や「世話役」に近いといえます。
代表相続人は必ず選ぶ必要があるわけではありませんが、金融機関や役所の側にとっても相続人の窓口が一本化されるメリットがあるので、代表相続人の指定を求められることがあります。 -
(2)誰を代表相続人にすればいい?
代表相続人は相続人のなかから選びますが、必ずしも相続の知識に詳しい人を選ぶ必要はありません。
また、手続ごとに違う人を代表相続人に選定することもできます。
代表相続人は、主に金融機関や役所での手続を担当するので、金融機関などの近くに居住していて平日の日中に時間が取れる人や、他の相続人と問題なくコミュニケーションが取れる人を選ぶといいでしょう。
なお、手続によっては遺産や現金を一時的に預かることもあるため、責任感が強い人や信頼できる人を選ぶことが大切です。
2、相続手続の流れと代表相続人の役割
以下では、相続手続の流れと、手続における代表相続人の役割を解説します。
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(1)相続人と相続財産の調査
相続人を確定するために戸籍謄本を取り寄せます。また、遺産分割の対象となる相続財産の調査を行います。
戸籍謄本や金融機関の残高証明、固定資産税評価証明書などの資料は、相続人であれば単独で交付を受けられるのが一般的であるため、資料取り寄せのために代表相続人を決めることはあまりないでしょう。 -
(2)被相続人の準確定申告
亡くなった方に生前の所得があった場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内に準確定申告を行う必要があります。
確定申告をすべき人が、年の途中で死亡した場合や、年が明けて確定申告をする前に死亡した場合、確定申告が未了の状態になってしまいます。亡くなった人に代わって、相続人や遺言で指定を受けた包括受遺者が確定申告を行うことを準確定申告といいます。
準確定申告は、相続人が2人以上いる場合には、相続人がそれぞれ行う方法と、各相続人が連署により一つにまとめて行う方法とがあります。連署により一つにまとめて行う場合には、相続人の1人が代表して税務署等役所の手続を行います。また、還付金がある場合には、原則として各相続人に分配されますが、受取人を代表者に指定することもできます。 -
(3)固定資産税納付通知書の受領
被相続人が不動産を所有していた場合、固定資産税納付通知書の送付先を一本化するために、市町村役場から相続人代表者指定届の提出を求められることがあります。
固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者が納税義務者となりますが、所有者が亡くなって相続登記の未了の間は相続人全員が納税義務者となるため、固定資産税の納付通知書を受領する代表相続人の指定を求められることになるのです。
代表相続人を指定したとしても、固定資産税全額の納付義務を負うわけではなく、立て替えて納付した場合には他の相続人にその負担分を請求することができます。 -
(4)遺産分割協議
相続人全員で、誰が、何を相続するのかを話し合います。
遺産分割協議では、代表相続人に特別な役割があるわけではなく、他の相続人と同じ立場で話し合いを行います。
ただし、相続財産の名義変更手続を代表相続人が行う場合は、その旨を遺産分割協議書に記載するのが望ましいので、話し合いで決めておく必要があります。
この点については、次章で詳しく解説します。 -
(5)相続財産の名義変更
遺産分割協議が成立すると、被相続人の名義になっている相続財産を各相続人の名義に変更する手続を行います。
相続財産は相続人全員が共有している状態にあるので、名義変更の手続は相続人全員で行う必要がありますが、代表相続人を選定することもできます。
代表相続人を選定して行うことができる手続の例としては、以下のようなものがあります。- ① 預貯金の解約・払い戻し
亡くなった方の預貯金を解約するためには、金融機関が用意している「相続手続依頼書」や遺産分割協議書、相続関係を証明する戸籍謄本などが必要になります。
その際、スムーズに預貯金の払い戻しを受けるために、代表相続人の選定を求められるケースもあります。
代表相続人を選定すると、被相続人の預貯金残高は全額代表相続人が指定した口座に振り込まれるので、遺産分割協議の内容に従って相続人に配分することになります。 - ② 不動産の換価分割
相続財産である不動産を売却して現金化し、売却代金を相続人で分け合う方法を換価分割といいます。
換価分割のために不動産を売却する場合は、代表相続人を選定して買い主と売買契約を締結する方法がよく用いられています。
相続財産の不動産を売却して登記名義を買い主に移転する場合、被相続人名義の不動産登記を直接買い主へ移転することはできず、いったん相続人名義に相続登記をする必要があります。
また、相続人の人数が多い場合に全員が売り主となって売買契約をすると煩雑になります。
そこで、売買契約をスムーズに進めるために、代表相続人へ相続登記をした上で代表相続人が売却手続を行う方法が用いられるのです。 - ③ 自動車の名義変更手続
被相続人名義の自動車を特定の相続人や第三者の名義に変更する場合、陸運支局などで相続人全員が名義変更手続を行う必要がありますが、代表相続人が代表して行うこともできます。
なお、軽自動車の名義変更手続は簡略化されており、相続人であることが確認できれば単独で手続することが可能です。
- ① 預貯金の解約・払い戻し
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(6)相続税の申告・納付
相続税が課税される場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に相続税の申告と納付をする必要があります。
相続税の申告は税理士に依頼することもできますが、その書類の取りまとめや税理士との連絡役となる代表相続人を選定しておくことで、申告手続をスムーズに進めることが可能になります。
3、代表相続人を選定した場合の注意点
以下では、代表相続人を選定する場合に注意すべき点を解説します。
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(1)代表相続人になっても相続分が増えるわけではない
代表相続人は手続を代表する役割を担いますが、相続人としての権利には何ら影響はなく、相続分が増えるわけではありません。
もっとも、遺産分割協議では誰が何をどれだけ相続するのかは、相続人全員の合意があれば自由に決めることができます。
そのため、代表相続人の事務負担を考慮しながら、具体的な相続分を調整することも可能です。 -
(2)代表相続人が行うことは遺産分割協議書に明記する
代表相続人が相続財産の名義変更に関する事務手続を代表して行う場合は、遺産分割協議書にその旨を明記しておくようにしましょう。
前章で解説した預貯金の解約・払い戻し、不動産の換価分割の手続などを代表相続人が行う場合は、特に注意が必要です。
預貯金の解約を代表相続人が行って払い戻しを受けた預貯金を相続人に分配した場合、代表相続人が預貯金全額を相続して他の相続人へ贈与したと解釈することも可能です。
その場合には贈与税が課税される可能性もあります。
不動産の換価分割も同様であり、不動産の売却代金を相続人に分配する行為が贈与とみなされる可能性があります。
お金の流れについて説明ができるように、遺産分割協議書で代表相続人として手続を行うことを明記しておくことが大切です。 -
(3)現金化した相続財産は専用の口座で管理する
代表相続人が解約した預貯金や不動産の売却代金などの資金を保管する際には、相続財産を管理するための口座を開設することをおすすめします。
専用の口座があれば相続財産の管理状況を容易に確認できるほか、固定資産税などの税金や公共料金、被相続人の借金の返済にも利用できるというメリットがあります。
4、相続の悩みは弁護士へ
相続手続は法律に従って進める必要があるため、法律の専門家である弁護士のサポートを受けることも検討してください。
相続手続について弁護士に相談することのメリットは、以下の通りです。
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(1)相続人同士のトラブルを防ぐことができる
相続手続では、ささいな点から相続人同士の感情的な対立に発展することも少なくありません。
相続人同士でもめそうになった場合でも、弁護士が間に入ることで、法律に従って理性的に話し合いを進めやすくなります。 -
(2)相続手続の期限を守ってスムーズに進められる
相続手続のなかには準確定申告や相続税の申告に関する期限のほかにも、期限が定められている手続があります。
そのため、相続の手続は不効率よく進めていく必要があります。
弁護士であれば、各種の期限を超過しないように注意しながら、資料の収集や遺産分割協議などの手続をサポートすることができます。 -
(3)弁護士に相続手続などを委任することもできる
相続手続には、役所や金融機関での手続から不動産などの売却、裁判所の手続など、多様な手続があります。
代表相続人を選定して効率的に処理できる場合もありますが、法律知識が必要な手続については、弁護士を代理人として手続を委任することも可能です。
弁護士は、相続人同士の交渉から不動産などの売却交渉、裁判所に関するものまで、相続に関わるさまざまな手続を代行することができます。
なお、不動産登記や相続税などの申告などでは、司法書士や税理士のサポートが必要になります。
しかし、異なる専門家に何度も事情を説明するのは、相続人にとっては面倒であったり負担になったりするでしょう。
したがって、弁護士が窓口となって、司法書士や税理士と連携したサービスを提供している法律事務所を選ぶことをおすすめします。
5、まとめ
相続人全員で行う必要がある相続手続のうち、固定資産税納付通知書の受領や預貯金の解約、不動産の換価分割のための売却などの手続は、代表相続人が代表して行うことができます。
預貯金の解約、不動産の換価分割など相続財産に関わる手続を代表相続人が行う場合は、遺産分割協議書に明記して贈与とみなされないように対策するなど、注意すべき点もあります。
また、相続手続は期限が定められているものもあるため、手続に不安がある場合は、早い段階から弁護士のサポートを受けることを検討してください。
ベリーベスト法律事務所では、弁護士、税理士、司法書士がチームとなって、お客さまをサポートするワンストップサービスを提供しております。
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