遺産分割について裁判は起こせる? 調停や審判など解決までの流れ

2022年09月26日
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遺産分割について裁判は起こせる? 調停や審判など解決までの流れ

裁判所が公表している司法統計によると、令和2年に横浜家庭裁判所に新たに申し立てのあった遺産分割調停は841件でした。また、同年に横浜家庭裁判所に新たに申し立てのあった遺産分割審判は115件です。

被相続人が亡くなった場合には、相続人による遺産分割協議によって、被相続人の遺産を分割することになります。しかし、相続人同士の話し合いでは合意を得ることが難しい場合もあります。そのような場合には、家庭裁判所を利用して、調停・審判・訴訟などの法的な手段を利用することになるのです。

本コラムでは、遺産分割に関する各種の法的手段の特徴や、訴訟を起こす場合の流れについて、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。

1、遺産分割調停と遺産分割審判

遺産分割に関する争いを解決するための手続きとして、家庭裁判所の遺産分割調停や遺産分割審判などがあります。

  1. (1)遺産分割調停とは

    遺産分割調停とは、遺産分割に関する争いを解決するための家庭裁判所の手続きです。遺産分割に関する争いが生じた場合には、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)によって解決するのが原則です。
    しかし、遺産分割に関する複雑な問題が生じているケースなどでは、相続人同士の話し合いでは合意が成立しないこともあります。そのような場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることによって、遺産分割に関する争いの解決を図ることができるのです。

    遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員が間に入って、話し合いを進行させます。そのため、当事者同士で協議するよりも冷静に話し合いを進めることができるのです。
    ただし、遺産分割調停は、あくまでも話し合いによる解決が基本であるという点では、協議と変わりません。したがって、調停に参加しない相続人がいる場合や自己の主張に固執している相続人がいる場合には、遺産分割調停でも解決することができない可能性があります。

  2. (2)遺産分割審判とは

    遺産分割審判は、遺産分割に関する争いを解決するための家庭裁判所の手続きであるという点では、遺産分割調停と共通しています。
    しかし、相続人による話し合いによって進行するのではなく、当事者から提出された資料や主張に基づいて裁判官が遺産分割方法を決定するという点が、調停と異なります

    遺産分割調停が不成立になった場合に、特別な申し立てを要することなく、自動的に遺産分割審判に移行します。
    離婚などにおける審判とは違い、遺産分割審判には調停前置主義が採用されていないため、遺産分割調停の申し立てをすることなく、遺産分割審判の申し立てをすることも原理的には可能です。
    ただし、実際には、いきなり遺産分割審判の申し立てをしたとしても、当事者同士による話し合いでの解決を促すため、職権で家庭裁判所が調停手続に付されるのが一般的です。

    なお、遺産分割審判は、当事者の合意による解決ではないため、裁判官が決定した遺産分割方法に不服がある場合には、即時抗告という不服申し立てをすることが可能です。
    この場合には、審判の告知があった日から2週間以内に即時抗告をする必要があります。

2、遺産分割において問題となる点

遺産分割においては、主に以下のような点が問題になります。

  1. (1)遺言書の有効性

    被相続人が遺言書を残して亡くなった場合には、被相続人の遺産は、相続人による遺産分割協議ではなく、遺言書の内容にしたがって分けることになります。
    しかし、遺言書には民法上厳格な要件が定められているため、下記のような場合には遺言自体が無効となるのです

    • 遺言の全文、日付及び氏名が自書でない
    • 日付の記載がない
    • 押印がない


    また、遺言書の様式には問題がなかったとしても、遺言書を作成した当時に遺言者が認知症であった場合には、遺言能力を欠くものと判断されて、無効になる場合があります。
    このように、遺言書が見つかった場合には、遺言書の有効性をめぐって問題になることがあるのです。

  2. (2)相続人の範囲

    遺産分割をする際には、相続人全員の合意が必要になります。
    相続人のうち1人でも欠いていた場合には、遺産分割協議自体が無効になってしまいますので、誰が相続人に含まれるのかが非常に重要となります。

    相続人の範囲としてよく問題になるのが、相続人が認知症である場合です
    相続人が認知症であったとしても相続人であることには変わりありませんので、遺産分割に参加させる必要があります。しかし、認知症で判断能力がない場合には、そのままの状態では遺産分割を成立させることができませんので、後見人の申し立てなど特別な手続きが必要になるのです。

  3. (3)遺産の範囲

    通常、登記名義上の所有者と実際の所有者は一致するため、被相続人が登記名義上の所有者である不動産は遺産の範囲に含まれます。しかし、登記名義上の所有者と実際の所有者が一致しないことがあり、その場合には被相続人が登記名義上の所有者である不動産でも遺産の範囲に属さないことになります。
    また、預金名義が被相続人であったとしても、実際には他人の預金であるということもあります。
    また、相続人が生前に勝手に被相続人の預金を引き出したという場合には、使途不明金をめぐる争いが生じます

    このように、さまざまな理由から、どの範囲の財産を遺産に含めるのかについて相続人同士で争いが生じることがあるのです

  4. (4)遺産の評価

    不動産が遺産に含まれる場合には、複数の評価方法が考えられますので、どのように評価をするかが問題となります。
    評価方法について相続人間の主張が対立しており、合意を成立させるのが難しいという場合には、不動産鑑定士による鑑定という方法がとられることもあります。

  5. (5)遺産分割方法

    遺産が現金や預貯金だけであれば、各相続人の法定相続分に応じて遺産を分ければよいため、簡単に遺産を分割することができます。

    しかし、不動産のように物理的に分割することが困難な遺産については、誰がどのような方法で相続するのかが問題となります
    遺産分割の方法には「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有分割」の四種類が存在しますが、それぞれにメリットとデメリットが存在します。
    そのため、どのような方法を採用するかについては、慎重に判断していく必要があるのです。

3、相続関係訴訟の流れ

遺産分割に関する争いの中には、遺産分割調停や遺産分割審判ではなく、相続関係訴訟によって解決しなければならない問題もあります。
以下では、訴訟によって解決すべき問題の種類や、訴訟を起こす際の具体的な流れについて説明します。

  1. (1)遺産分割において訴訟提起できるケース

    遺産分割調停は遺産の分け方を話し合うための手続きですから、その前提事実の争いを解決する手続きではありません。遺産分割の前提事実に争いがある場合には、その決着のために相続関係訴訟を提起することがあります

    遺産分割の前提事実に争いがあるケースとしては、以下のようなものが挙げられます。

    • 遺言書の有効性に争いがあるケース
    • 相続人の範囲に争いがあるケース
    • 遺産の範囲に争いがあるケース
    • 使途不明金の争いがあるケース
  2. (2)相続関係訴訟の具体的な流れ

    相続関係訴訟は、以下のような流れで進行します。

    ① 訴訟提起
    相続関係訴訟を提起するためには、訴状を裁判所に提出する必要があります。この際に訴状を提出する先は、家庭裁判所ではなく地方裁判所となります。

    ② 被告への訴状の送達
    訴状が受理されると、第1回口頭弁論期日が指定されて、訴状の副本と期日の呼出状が裁判所から被告に送達されます。
    訴状を受け取った被告は、内容を確認して、反論がある場合には期限までに裁判所に答弁書を提出します。

    ③ 第1回口頭弁論期日
    裁判所から指定された期日に原告及び被告が裁判所に出頭し、第1回口頭弁論期日が行われます。
    第1回口頭弁論期日では、原告が提出した訴状と被告が提出した答弁書の陳述がなされますが、実際に書面を読み上げる必要はなく、「陳述します」と言うだけで足ります。
    相続関係訴訟は初回で結審することがほとんどないため、次回以降の期日が決められて、第1回口頭弁論期日が終了となります。

    ④ 第2回目以降の期日
    第2回目以降の期日も同様に当事者からの主張や反論の準備書面が提出されて、それを陳述するということが行われます。
    このような期日を何度か繰り返していくことで、争点や当事者たちの主張を整理していきます。

    ⑤ 和解
    期日を重ねていくと、裁判官が事件について一定の心証を抱いていくことになります。当事者の主張や証拠などからある程度の心証が形成された場合には、裁判官から和解が打診されることがあります。
    裁判官から提示された和解案を原告と被告双方が検討し、それに双方が応じた場合には、その時点で和解により相続関係訴訟は終了となります。

    ⑥ 判決
    当事者同士の対立が激しいなどの理由で和解が成立しない場合には、その後も審理が継続します。
    そして、最終的には、当事者の主張や提出された証拠に基づいて、裁判官が判決を言い渡すのです。

    判決内容に不服がある場合には、判決を受け取った日から2週間以内に控訴することで、不服を申し立てることができます。

4、遺産分割については弁護士へ相談を

遺産分割に関して被相続人同士で意見が激しく対立している場合には、当事者同士の話し合いでは解決することが難しいため、相続関係訴訟を提起することが必要になる場合が多々あります。

相続関係訴訟を提起して、法廷における主張の立証を適切に行うことは、遺産相続に関する正確な法的知識や訴訟手続の経験がなければ困難です。
遺産分割協議や調停の段階で被相続人間の対立が激しく、合意が成立することが期待できない場合には、早めから弁護士に相談することをおすすめします

5、まとめ

遺産分割に関する問題は、遺産分割調停や遺産分割審判によって解決するのが基本ですが、被相続人間の意見の対立が激しい場合には、遺産分割訴訟の提起が必要になることもあります。

遺産分割では、生じている問題の種類によって適切な解決方法が異なってくるため、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。
神奈川県小田原市や周辺市町村にお住まいで、遺産相続に関してお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスまでお気軽にご連絡ください

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