社労士と弁護士の違いとは? どちらに依頼すべきかをケースごとに紹介
- 労働問題
- 社労士
- 弁護士
2022年度に神奈川県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は7万6762件でした。
社労士(社会保険労務士)と弁護士は、どちらも人事・労務管理に関する業務を取り扱っていますが、それぞれの業務範囲は大きく異なります。企業の人事・労務管理について相談事項が発生した場合には、その内容に応じて社労士と弁護士を使い分けましょう。
本記事では社労士と弁護士の違いについて、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(神奈川労働局)
1、社労士と弁護士の違いは?
社労士と弁護士は、いずれも労働問題を取り扱う専門家ですが、その役割や業務内容には違いがあります。自社が対応すべき業務や問題の内容に応じて、相談先を使い分けましょう。
-
(1)社労士の役割・業務内容
社労士は、労務管理や社会保険に関する事項を取り扱う専門家です。具体的には、以下の業務を取り扱っています(社会保険労務士法第2条)。
- ① 労働および社会保険に関する法令に基づいて、申請書等を作成すること
- ② ①の申請書等について、その提出に関する手続きを代わってすること
- ③ 労働および社会保険に関する法令に基づく申請・届出・報告・審査請求・再審査請求その他の事項、または当該申請等に係る行政機関等の調査・処分に関し、その行政機関等に対してする主張・陳述について代理すること
- ④ 特定の労働関係法令に基づく調停の手続きについて、紛争の当事者を代理すること
- ⑤ 個別労働関係紛争に関する都道府県労働委員会のあっせん手続きについて、紛争の当事者を代理すること
- ⑥ 個別労働関係紛争に関するADR手続きのうち、厚生労働大臣が指定するものについて、紛争の当事者を代理すること(紛争の目的の価額が120万円を超えるときは、弁護士と共同受任する場合に限る)
- ⑦ 労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類を作成すること
- ⑧ 事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について相談に応じ、又は指導すること
※④~⑥は、紛争解決手続代理業務試験に合格し、登録に紛争解決手続代理業務の付記を受けた社労士のみ取り扱うことができます。
社労士は上記のとおり、労務管理や社会保険に関する書類の作成・代理提出に加えて、一部の労使紛争の解決手続きに関する代理業務を取り扱うことができます。
-
(2)弁護士の役割・業務内容
弁護士の職務は、「訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務」を行うこととされています(弁護士法第3条第1項)。
「その他一般の法律事務」とは、法律に関係する事務全般を意味します。労務管理に関しても、弁護士は全般的に業務を行うことが可能です。
特に、労使間の紛争解決を全般的に取り扱うことができる点は、弁護士の大きな特徴です。
前述のとおり、社労士も一部の紛争解決手続きの代理業務を行うことができますが、弁護士は無制限に紛争解決手続きの代理業務を行うことができます。
2、社労士に依頼した方がよいケース
社労士に相談・依頼できるのは、主に日常的な労務管理に関する事項です。
具体的には、以下のような事柄については社労士に相談するのがよいでしょう。
-
(1)社会保険・労働保険に関する手続き
会社が雇用する労働者については、社会保険(健康保険・厚生年金保険)および労働保険(労災保険・雇用保険)への加入が必要になります。
社会保険および労働保険に関する手続きは、社労士が得意とする分野です。自社で対応するのが大変な場合や、対応にかかる人件費を削減したい場合には、社労士に手続きを依頼するのがよいでしょう。 -
(2)社会保障制度全般に関する相談
社労士は、社会保険や労働保険を含めた社会保障制度全般について深い知見を有しています。
具体的な手続きが必要となる場面に限らず、社会保障制度に関して何らかの疑問点が生じた場合には、社労士に相談してアドバイスを求めるとよいでしょう。 -
(3)給与計算などの日常的な相談
労働者に対して支払う給与について、残業代などを含めた細かい計算を行う際には、社労士のサポートを受けるのが安心です。
労働基準法その他の法令や、会社の社内規程などの内容を踏まえて、正確な計算を行ってもらえるでしょう。
また、給与に関するルールなどについて何らかの疑問点が生じた場合には、社労士に相談すれば具体的な事情に即したアドバイスを受けられます。
3、弁護士に依頼した方がよいケース
弁護士には、人事労務に関する事柄を幅広く相談・依頼できます。特に、トラブルの予防や実際に発生したトラブルへの対応については、弁護士に依頼すべきです。
具体的には、以下のような事柄については弁護士に相談するのがよいでしょう。
-
(1)契約書や社内規程のリーガルチェック
契約書や社内規程など、労使関係における権利義務に関する文書の作成やチェックは、弁護士の得意とする分野です。
契約書や社内規程の条項に不明確な部分が含まれていると、その解釈を巡って労使紛争が生じる原因になります。また、法令に照らして無効な条項が含まれていると、やはり労使紛争の原因になってしまいます。
弁護士にリーガルチェックを依頼すれば、上記のような不適切な条項を発見・修正してもらえますので、労使紛争の予防につながります。 -
(2)従業員とのトラブルへの対応
残業代の未払い・不当解雇・ハラスメントなどに関して、会社と従業員の間にトラブルが発生した場合には、弁護士に対応を依頼するのがよいでしょう。
弁護士は、労使間の紛争解決に関する業務を制限なく取り扱うことができます。弁護士が会社の代理人として適切に対応すれば、労使紛争の早期解決につながります。 -
(3)総合的な社内体制の整備
労働法令における規制や、その他のコンプライアンス上のリスクなどを踏まえた総合的な社内体制を整備したい場合には、弁護士への相談をおすすめします。
社内体制の整備に当たっては、会社全体の状況の把握や、たくさんの種類のドキュメンテーション(書類作成)が必要になります。
弁護士は、複雑な状況を整理して対応することに長けていますので、総合的な社内体制の整備に関するサポート役として適任です。
4、労働に関するトラブルを解決するまでの流れ
従業員との間で労働問題が発生した場合には、以下の手続きを通じて解決を図ります。弁護士のサポートを受けながら、早期に妥当な条件による解決を目指しましょう。
-
(1)従業員との交渉
労使紛争が発生した場合には、まず従業員との交渉を通じて解決を図るのが一般的です。交渉が妥結すれば、早期に労使紛争を解決できます。
従業員との交渉に当たっては、従業員側の主張の当否を法的に検討した上で、請求等に応じるかどうかを適切に判断しましょう。
また、労使紛争の早期解決を図る観点からは、和解による解決を模索することも選択肢の一つです。弁護士のアドバイスを踏まえつつ、会社の損害を最小限に抑えられるように対応しましょう。 -
(2)労働審判
労働審判は、労使紛争を迅速に解決することを目的とした法的手続きです。
労働審判委員会(裁判官1名・労働審判員2名)による調停・労働審判を通じて公平な解決を得られる点が、労働審判のメリットといえます。
労働審判の審理は原則として3回以内で終結するため、初回の期日までの準備が非常に大切です。会社側の主張を補強する証拠をそろえた上で、法的な観点から合理的な主張を組み立てましょう。
なお、労働審判に対して当事者が異議を申し立てた場合には、自動的に訴訟へ移行する点に注意が必要です。 -
(3)訴訟
訴訟は、裁判所の公開法廷で行われる紛争解決手続きです。労使双方が証拠に基づく主張・立証を行った後、裁判所が判決によって結論を示します。
訴訟では、会社側の主張を補強する証拠を十分にそろえることが非常に重要です。どのような証拠が有効であるかは具体的な事情によって異なるので、弁護士のアドバイスを受けながら適切に準備を整えましょう。
5、まとめ
企業の労務管理に関する手続き・疑問点・トラブルなどについては、その種類や内容に応じて相談先を使い分けることが大切です。労務管理に関する主な相談先としては、社労士と弁護士が挙げられます。
社労士には、社会保険・労働保険に関する手続きや、労務管理に関する日常的な疑問点などを相談できます。
これに対して、弁護士には労働問題全般に関する相談が可能です。特に、従業員との間で発生した労働紛争への対応については、弁護士に依頼することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、企業の労務管理に関するご相談を随時受け付けております。労働事件に関する経験を豊富に有する弁護士が、クライアント企業の具体的な状況を踏まえた上で、スムーズに問題を解決できるようにサポートいたします。
従業員とのトラブルへの対応にお悩みの企業や、労務コンプライアンスの強化を図りたい企業は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています