解雇トラブルで訴訟になった事案における裁判例と企業が行うべき対策
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企業の経営者のなかには、「従業員がミスばっかりするので解雇したい」と考えている方や、「解雇を言い渡したら、従業員が不当解雇だと言ってきた」と悩まれている方も多くいるでしょう。
従業員に問題があるとしても、解雇をする際には法律に定められた適切な手順や方法で実施しなければ無効となる点に注意が必要です。
本コラムでは、解雇に関する法律上のルールや「解雇権濫用」の法理、解雇トラブルに関する実際の裁判例や企業が取るべき対策などを、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説いたします。
1、会社側が従業員を解雇するためのルール
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(1)解雇とは
「解雇」とは、使用者(会社)による労働契約を解約する意思表示のことです。
退職も労働契約の終了ですが、退職は会社と従業員の合意によって契約が終了するのに対して、解雇は会社側から一方的に契約を終了させるものです。
解雇は普通解雇と懲戒解雇に大別でき、また、普通解雇には整理解雇と、それ以外の(狭義の)普通解雇があります。
普通解雇とは、後述する懲戒解雇以外の解雇をいいます。
普通解雇のなかには、従業員に原因がある「狭義の普通解雇」と、従業員には原因がなく主として会社の経済的な原因による「整理解雇」があります。
「狭義の普通解雇」は、従業員の能力不足、協調性欠如など、何らかの落ち度があり、それを理由に行う解雇のことです。
通常、単に「普通解雇」という場合には、この「狭義の普通解雇」のことを指します。
「整理解雇」は企業の経営が悪化して従業員を雇用し続けることが困難な状況に陥った場合に、人員整理を目的として行われる解雇をいいます。
「懲戒解雇」は、従業員に対する制裁として行われる解雇のことです。 -
(2)解雇に関するルール
- 民法上の原則 期間の定めのない労働契約の場合には、2週間前の予告が要求されるものの、労働契約の解約は自由です。
- 規制 以上のとおり、民法では、会社側に「解雇の自由」があるとされています。
しかし、解雇は従業員に生じる経済的不利益が大きく、安易に解雇を許せば社会に混乱が生じると考えられたことから、使用者の解雇権を一定の事由がある場合に制限する社会的必要性が強いとされています。
そのために、解雇を制限する目的から、以下のようなルールが制定されているのです。
- ① 解雇権濫用の法理(労働契約法16条)
- ② 解雇が禁止されている場面(労基法19条等)
- ③ 30日前の解雇予告(労基法20条)
それぞれのルールの概要は、下記の通りです。
① 解雇権濫用の法理(労働契約法16条)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、解雇権を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。
この考え方を「解雇権濫用の法理」といいます。
解雇権濫用の法理は、解雇を考えるうえでは最も重要なルールであるため、2章で詳しく解説します。
② 解雇が禁止されている場面(労基法19条など)
業務上の負傷・疾病による療養のために休業する期間とその後の30日間、産前産後休業の期間とその後30日間は、その従業員を解雇できないとしています(労基法19条1項)。
これに違反した会社は罰則の対象になります。
③ 30日前の解雇予告(労基法20条)
労基法では、民法で定められた2週間の解雇予告期間が、30日に延長されています。
つまり、実際に従業員を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前に解雇予告をしなければならないのです。
もし、30日前に予告をしない場合には、解雇予告手当として、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。
逆にいえば、平均賃金を支払った日数分だけ、予告の日数を短縮することが可能です。
2、解雇権濫用の法理と裁判例からわかる対策のポイント
解雇権濫用の法理が存在するために、企業が労働者を解雇することのハードルはかなり高くなっています。
以下では「解雇濫用の法理の基本的な考え方や、対策のポイントを解説します。
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(1)基本的な考え方
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。
逆にいえば、「① 客観的に合理的な理由」があって「② 社会通念上相当である」と認められる場合に初めて、解雇は有効となるのです。
「① 客観的に合理的な理由」があるかどうかについては、客観的・類型的に見て判断されます。
具体的には、以下のような類型に当てはまる事情があるなら、解雇について客観的に合理的な理由があると認められやすくなります。- 職務能力・成績・適格性の欠如
- 経歴詐称
- 業務命令違反、不正行為等の非違行為・服務規律違反
- 欠勤、遅刻・早退、勤務態度不良等の職務怠慢
- 従業員の傷病や健康状態に基づく労働能力の喪失
- 経営上の必要性に基づく理由
「② 社会通念上相当である」かどうかは、「① 客観的な理由がある」ことを前提にして、個別具体的事情をふまえて判断されます。
従業員に有利となる個別的な事情が考慮に入れられ、解雇が過酷すぎると認められる場合には、解雇が社会通念上相当ではないと判断されることになります。
具体的には、以下のようなポイントが考慮されながら、事案ごとに判断されるのです。- 従業員の情状
- 解雇の目的(不当な動機)
- 他の従業員の処分や過去の処分例との均衡
- 会社側の対応や落ち度
- 解雇の手続
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(2)職務能力・適格性の欠如、職務怠慢が問題になった裁判例と対策ポイント
職務能力の欠如や職務怠慢を理由とする解雇は、通常はひとつの事実だけを理由とするものではなく、多くの事実の積み重ねの結果、「職務能力がない」「職務怠慢」と判断していることがほとんどです。
そのため、これらを理由に解雇する場合には、いかに多くの事実を説得的に積み重ねられるかが重要となります。
以下では、職務能力の欠如や職務怠慢が問題なった裁判例を紹介します。- 日本ヒューレット・パッカード事件:東京高判平成25年3月21日
従業員が、修理時の作業員が交換することのできる部品が記載されたリストを勝手に増加・分割させてリストに誤情報を掲載したこと、ウェブのシステム移行作業の遅延、残業削減指示無視、業務命令違反等を起こしたことから、上司による日常的な指導や人事評価制度に基づく改善指導を行ったが、改善が見られなかったことを理由に行った解雇が有効と判断されました。
この裁判例からは、業務指⽰に対する違反や不適切な⾔動など問題⾏動を何度も行う従業員には、個々の問題⾏動がさほど重⼤なものではなかったとしても、継続的な注意や指導を行い、そうした証拠を残しておくことが、その後の処分の有効性を確保するために重要であるということわかります。
- ゴールドマン・サックス・ジャパン・リミテッド事件:東京地判平成10年12月25日
裁判所は、そのすべてを事実として認定したわけではなく、また個々的には解雇に値するほど重大なものとはいないとしながらも、総合すれば、勤務成績や勤務状況は不良であったといわざるを得ないとして、解雇を有効としました。
実務上、ささいな問題行動のすべてを記録化することは難しいかもしれませんが、先の事例と同様に継続的に注意・指導を行い、その証拠を残しておくことはやはり重要といえます。
本事例では業務の怠慢に対して、書面による警告を行っていることも、解雇を有効と判断するうえで重要な要素となりました。
普通解雇の有効性が争われた場合には、解雇に至るまで企業がどのような注意・指導を行ってきたのかが重要であり、この注意を行う際の文書には抽象的な注意にとどまるのではなく、「何が問題だったのか」という点が第三者から見てもわかるように記載することが大切です。
3、解雇を検討するときは弁護士に相談
解雇を行うには、会社は解雇に至るまでの慎重なステップ(改善の機会の付与など)を踏むことや、解雇に至るだけの証拠を積み重ねていくことが必要になります。
したがって、従業員に問題の行動があった場合、早期の段階から弁護士に相談することで、よりスムーズに解雇につなげやすくなります。
また、もし解雇をしたあとに従業員が不服を申し立てて争いになった場合には、すぐに弁護士に相談して、トラブルに対して適切に対処する必要があります。
4、まとめ
解雇は、従業員の生計に少なからず影響を与えます。
そのため、安易な解雇は許されず、企業が従業員を解雇するには解雇権濫用の法理など高いハードルをクリアする必要があります。
従業員の解雇を検討する場合や、解雇の無効を訴えられて争いになった際には、法律の専門家である弁護士に相談して適切に手続きを進めることが大切です。
ベリーベスト法律事務所では、解雇をはじめとした労働問題や、その他の企業法務の問題全般に関するご相談を承っております。
企業の経営者の方は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています