長時間労働がもたらす影響とは? 企業が取り組むべき解決策を解説

2023年01月24日
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長時間労働がもたらす影響とは? 企業が取り組むべき解決策を解説

神奈川県小田原市のデータによると、同市内の2020年における有効求職者数2855人に対して、有効求人数1810人にとどまり、有効求人倍率は0.63倍でした。2019年の1.00倍に比べて大きく低下しており、コロナ禍の影響による求人数が大幅に減少したと考えられます。

従業員による過度な長時間労働が常態化している企業は、労働基準法違反で訴えられるリスクを抱えているだけでなく、中長期的には企業自体の成長が止まってしまうおそれもあります。企業としては、従業員の労働時間を正しく把握したうえで、長時間労働の解消について積極的に取り組むことが大切です。

本コラムでは、長時間労働によって企業に生じ得る悪影響や、長時間労働を解消するために企業が行うべき取り組みなどについて、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。

1、長時間労働はどこから? 労働時間に関する法律上のルール

「長時間労働」というのは抽象的な言葉であり、どこからが長時間労働であるかという明確な基準はありません。
しかし、労働条件に関する規制を定めている労働基準法では、過度な長時間労働を抑制するため、労働時間についても一定のルールを設けています。

まずは、労働基準法における労働時間のルールについて解説します。

  1. (1)法定労働時間|1日8時間、週40時間

    企業は原則として、法定労働時間を超えて労働者を働かせてはいけません(労働基準法第32条)
    具体的には1日8時間、週40時間が上限となります。
    これを「法定労働時間」といいます。

    ただし、変形労働時間制やフレックスタイム制を適用する労働者については、一定期間における平均労働時間を用いて、法定労働時間の範囲内かどうかを判定することが認められています(同法第32条の2~第32条の4)。
    また法定労働時間には、以下のような例外も認められています。

    • 常時使用する労働者が10人未満の特例措置対象事業場(商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業)では、法定労働時間は週44時間となる
    • 繁閑の差が激しい一定の業種(小売業、旅館、料理店、飲食店)では、法定労働時間を1日10時間まで延長できる
  2. (2)三六協定|原則月45時間、年360時間

    企業が法定労働時間を超えて従業員を働かせるためには、労働組合などとの間で労使協定(三六協定)を締結しなければなりません。
    三六協定を締結すれば、その中で定められる限度時間の範囲内で、従業員に法定労働時間を超える時間外労働を命じることができます。

    ただし、三六協定で定めることができる時間外労働の時間数には、「月45時間・年360時間」という限度時間が設けられています(労働基準法第36条第4項)。
    三六協定の限度時間を超える労働は原則として違法であり、過度な長時間労働と判断される可能性が高い点に注意してください

    なお、通常予見することのできない業務量の大幅な増加など、臨時的な必要性がある場合に限り、限度時間を超える労働を指示できる特別条項を定めることができます(同法第5項、第6項)。
    ただし、特別条項を定める場合にも、以下にあげる条件のすべてを遵守する必要があります。

    • 1年につき720時間以内
    • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
    • 時間外労働と休日労働の合計について、2~6カ月平均がすべて1カ月当たり80時間以内
    • 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、1年につき6カ月以内
    • 坑内労働などの健康上特に有害な業務については、1日当たり2時間以内

2、過度な長時間労働がもたらす悪影響の例

以下では、従業員による過度な長時間労働が常態化することで生じる、企業の業績低下につながるさまざまな悪影響について解説します。

  1. (1)生産性の低下

    連日にわたって長時間労働を行う従業員は、疲労や睡眠不足などの影響により、生産性が低下してしまうでしょう
    また、疲労を原因とした営業活動の鈍化やミスによる損失が増加してしまい、企業の業績に悪影響が生じるおそれもあります。

  2. (2)離職者の増加

    長時間労働は、従業員にとって心身に大きな負担となり「この仕事を長く続けていくことは困難だ」という考えにつながってしまいます。
    また、自分自身が長時間労働をしているわけではなくても、他の従業員が長時間労働を強いられているのを見た社員が、「将来は自分も長時間労働をさせられるかもしれないから、その前に離職しよう」と考えてしまう可能性もあります。
    したがって、長時間労働は離職者を増加させて、人員が不足する事態を招いてしまうおそれがあるのです

  3. (3)労働災害の発生

    特に工場や建設現場などにおいては、長時間労働に起因する集中力の低下は、事故による労働災害の発生リスクを大幅に高めます。
    また、デスクワークなどであっても、長時間労働は脳・心臓疾患や精神疾患、ひいては過労死のリスクを高めてしまうのです。

    労働災害の件数が増加すれば、企業の規模などによっては労災保険料が上がるほか、労働基準監督署による厳しい監督を受ける可能性もあります
    また、死者や重傷者が出てしまった場合には、企業のイメージが大幅に下がり、業績や採用活動に甚大な影響を与えてしまうおそれがあります。

  4. (4)人材採用の難航

    長時間労働が横行する職場という評判が社会的に広まると、新卒・中途を問わず、人材の採用が難航してしまいます

    優秀な人材を確保できなくなれば、企業として中長期的な成長を望むことは困難です。
    また、十分な数の人員を確保できないことにより、既存の従業員がさらに長時間労働を強いられるという悪循環に陥ってしまうおそれもあるのです。

3、長時間労働を解消するために企業が取り組むべきこと

企業で常態化する長時間労働を解消するためには、経営者が主導しながら、以下のような取り組みを行うことが必要になります。

  1. (1)労働時間を正しく把握する

    長時間労働を是正・解消するための第一歩は、従業員の労働時間を正確に把握することです

    労働時間について正確に把握することで、「誰に業務が偏っているのか」ということを可視化することができます。
    その結果、業務の分散や担当者の増員など、適切な対策を施しやすくなるでしょう。
    勤怠管理システムを利用して機械的に労働時間を記録する、管理職と従業員が1on1ミーティングを行うなど、さまざまな手段を用いながら、労働時間の正確な把握に努めましょう。

  2. (2)十分かつ適材適所の人材を配置する

    個々の従業員の長時間労働を解消するためには、業務量に対して十分な数の人材を配置することが必要になります

    また、各従業員の得意分野を生かした仕事を担当させることは、結果的に業務の効率化や労働時間の短縮につながり、企業の業績にとってもプラスになるでしょう。

  3. (3)無駄な業務を減らす

    必要のない無駄な業務は、ひとつひとつはささいな影響しかなくても、チリも積もれば山となり、長時間労働の原因になる可能性があります。
    たとえば、従業員の働く現場で以下のような事態が起こっている場合には、速やかに改善する必要があるでしょう。

    • 内部文書の作成ルールが複雑すぎる
    • 決裁担当者の押印待ち時間が長すぎる
    • 不必要な会議が乱立している
    • 意味のない電話対応に多くの時間をとられている


    DX化・ペーパーレス化を推進したり、取引先・顧客向けの窓口対応の方法を変えたりするなど、起こっている事態や企業の状況に応じたさまざまな方法を用いながら、事態の改善を目指してください。

  4. (4)有給休暇・振替休日・代休などの制度を整備する

    従業員の心身を回復させるため、休暇・休日の制度を充実させることも、長時間労働を解消するための有力な選択肢です。
    具体的には、以下のような制度が考えられます。

    • 労働基準法によって義務付けられている水準よりも多い日数の有給休暇を付与する
    • 休日に労働させる場合は、あらかじめ振替休日を指定する
    • 休日に労働した従業員に対して、代休の取得を奨励する
    • 大型連休と組み合わせた特別休暇を付与する


    一時的に長時間労働が発生したとしても、休暇・休日によって授業員がリフレッシュできる仕組みが整っていれば、長時間労働による弊害を軽減することが可能です。

4、長時間労働の是正について弁護士に相談するメリット

社内で長時間労働が常態化している状況を改善したい場合には、弁護士にご相談ください。

弁護士は、企業の状況や労働法令のルールを総合的に検討したうえで、長時間労働の根本的な改善に向けた解決策を具体的にアドバイスすることができます
また、実際の取り組みを行うにあたって必要となる、社内規程の見直しや社内体制の整備についても、法律・人事労務の観点から全面的にサポートすることが可能です。

企業が中長期的に成長を続けていくためには、長時間労働を是正して、従業員にとって働きやすい労働環境づくりに取り組むことが大切です。
過重労働や長時間労働を改善するための対策を検討されている企業の経営者は、顧問弁護士のご活用を検討ください。

5、まとめ

連日の残業により長時間労働に陥っている従業員が増えると、企業全体として生産性の低下や離職者の増加、労働災害の発生や人材採用の難航など、さまざまなリスクを抱えることになります。
企業が中長期的な成長を目指すにあたっては、常態化した長時間労働を是正するために、労働環境の改革に取り組むこと欠かせません。

ベリーベスト法律事務所では、人事労務に関する企業からのご相談を随時受け付けております
労働法令や労働実務について知見の深い弁護士が、個々の企業の状況に合わせた改善策をアドバイスいたします。
「従業員の長時間労働を何とか改善したい」「働きやすい職場を作りたい」などのお悩みを抱えられている経営者の方は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください。

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