業務委託契約書の損害賠償条項において注意すべきポイント
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神奈川県の工業統計調査によると、2020年6月1日時点の神奈川県内における製造業事業所数(従業者4人以上)は7267事業所で、前年比82事業所の減少となりました。
業務委託契約書を作成・締結する際には、損害賠償条項を盛り込むのが一般的です。損害賠償条項の内容が自社にとって不当に不利な内容である場合、契約トラブルが発生した際には、不測の損失を被ってしまうおそれがあります。
そのため、企業としては、損害賠償条項に関するチェックポイントに留意して、相手方と契約交渉を行うことが大切になるのです。本コラムでは、業務委託契約書の損害賠償条項の概要や注意点などを、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。
1、業務委託契約書とは?
業務委託契約書とは、当事者の一方(委託者)が何らかの業務を委託して、もう一方(受託者)が当該業務を受託する内容の契約書です。
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(1)業務委託契約書が締結される場合の例
業務委託契約書は、実に多種多様な場面で締結されます。
業務委託契約書が締結される場面の具体例としては、以下のような場合があります。- 会社が個人事業主(フリーランス)に対して、集客用ウェブサイトの制作業務を発注する場合
- 元請事業者が下請事業者に対して、機械部品の製造業務を発注する場合
- ソフトウエア開発会社がエンジニアに対して、オフィスでの常駐業務を発注する場合
委託業務の内容もさまざまであるため、当事者が想定する取引の内容に応じて、業務委託契約書をオーダーメードで作成する必要があるのです。
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(2)業務委託と雇用の違い
業務委託契約に基づき、受託者が委託者のオフィスに常駐するケース(いわゆる「常駐案件」)などでは、受託者は委託者に雇用されている従業員と似たような作業を行うこともあります。
しかし、常駐案件を受けた受託者が「業務委託契約」(あるいは請負契約・準委任契約)であるのに対して、従業員は「雇用契約」であり、まったく異なる契約となるのです。
業務委託と雇用の最大の違いは、当事者間の指揮命令関係の有無にあります。
業務委託の場合、委託者と受託者は対等な契約関係にあり、委託者は受託者に対する指揮命令権を持ちません。
受託者は、仕事の進め方や時間の使い方などを、自身の裁量で決めることができます。
これに対して、雇用の場合、使用者は労働者に対して指揮命令権を有します。
労働者は、使用者の業務指示が合理的なものである限り、その指示に従わなければなりません。
業務委託か雇用かは、契約上の規定のみならず、実質的な作業実態も考慮したうえで判断されることになるのです。
2、業務委託契約書における損害賠償条項の内容・機能
業務委託契約書には、損害賠償条項が設けられるのが一般的です。
以下では、業務委託契約書における損害賠償条項について、内容と機能を解説します。
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(1)債務不履行時の損害賠償の範囲を定める条項
業務委託契約書における損害賠償条項は、債務不履行時の損害賠償の範囲を定めるものです。
債務不履行とは、端的にいえば「契約違反」のことになります。
業務委託契約における債務不履行としては、以下のような事態が想定されます。- 受託者のミスが原因で、委託者に損害が生じた
- 受託者の納品が納期に遅れた
- 委託者が受託者の機密情報を流出させた
上記のような事態によって、相手方に損害を発生させた場合、債務不履行を起こした側は損害賠償責任を負います。
この損害賠償の範囲を定めるのが、損害賠償条項の目的です。 -
(2)損害賠償条項がない場合、民法の規定が適用される
業務委託契約書に損害賠償条項を定めなくても、債務不履行に基づく損害賠償が請求できなくなるわけではありません。
この場合、民法の債務不履行に関する規定が適用されるからです。
民法では、債務不履行時の損害賠償請求を認めたうえで(民法第415条第1項)、損害賠償の範囲を以下のとおり定めています(民法第416条第1項、第2項)。- ① 債務不履行によって通常生ずべき損害(通常損害)
すべて損害賠償の対象 - ② 特別の事情によって生じた損害(特別損害)
当事者がその事情を予見すべきであった場合に限り、損害賠償の対象
- ① 債務不履行によって通常生ずべき損害(通常損害)
3、業務委託契約書で損害賠償条項を定める際のチェックポイント
業務委託契約書において損害賠償条項を定める場合、以下の2点に留意したうえで、契約書を確認するようにしましょう。
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(1)民法の規定との比較を意識する
損害賠償条項に基づく損害賠償の範囲が妥当かどうかを判断するには、民法の規定が基準となります。
損害賠償条項で規定される損害賠償の範囲のパターンを、狭いものから順に並べると、以下のようになります。- ① 債務不履行によって発生した損害を「通常損害に限り」賠償する
- ② 債務不履行によって発生した損害を「通常損害と予見可能な損害の範囲で」賠償する
- ③ 民法では通常認められない損害項目(弁護士費用等)を列挙して賠償義務に含める。
民法の規定(②)を基準とすれば、①は範囲が狭すぎ、③は広すぎるということになります。
業務委託契約では、債務不履行を起こす可能性は、委託者よりも受託者の方が高いのが一般的です。
そのため、①は受託者有利(委託者不利)、③は委託者有利(受託者不利)の規定と理解すべきでしょう。
もし、相手方から自社にとって不利な損害賠償の範囲を提示された場合には、契約交渉を通じて修正を求めるようにしましょう。 -
(2)損害賠償の上限規定には要注意
抽象的な要件に基づく損害賠償の範囲とは別に、損害賠償の上限額が設定されるケースもあります。
業務委託契約書の損害賠償条項において、損害賠償の上限が設けられている場合には、金額設定が適切かどうかをよく検討しなければなりません。
仮に相手方の債務不履行により発生した損害額が損害賠償の上限が上回っている場合には、十分な損害賠償を受けられません。
債務不履行に関するリスク分析を行った結果、債務不履行の上限額が低すぎると判断される場合には、契約交渉を通じて修正を求めるようにしましょう。
4、契約書の作成に関して弁護士がサポートできること
弁護士に相談すれば、業務委託契約書を含めたあらゆる契約書の作成・締結について、不利益を被ることを避けるためのサポートを受けることができます。
具体的には、以下のポイントを押さえた契約書を作成することで、契約トラブルによる損失リスクを少なくすることができるのです。
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(1)疑義のない条文を作成して、契約トラブルを予防する
契約書の文言が曖昧である場合には、実際に契約トラブルが発生した際、契約の解釈を巡って紛争が深刻化してしまいます。
弁護士に契約書の作成・チェックを依頼すれば、疑義のない明確な文言に条文を整えて、契約トラブルの深刻化を予防することができます。 -
(2)取引から想定されるリスクを分析して、対処法を契約書に盛り込む
契約書は、当事者間でトラブルが発生した際に、解決の基準として働きます。
そのため、契約書を作成する際には、取引から想定されるリスクへの対処法を可能な限り網羅的に盛り込むことが重要になります。
弁護士は、取引から生じるリスクを精緻に分析したうえで、依頼者の立場から見たリスクを最小化するための対策をアドバイスすることができます。 -
(3)不利な条項を削除するよう、相手方と契約交渉をする
契約書のドラフトを相手方が提示してきた場合は、自社にとって不利な契約条項が含まれている可能性があります。
弁護士に契約書のチェックを依頼することで、不利な条項を見逃さずに確認して、修正案を提示してもらうことができます。
相手方に対してコメントを返す際にも、修正の理由を説得的に記載することで、有利な条件で契約を締結できる可能性が高められるでしょう。
5、まとめ
業務委託契約書の損害賠償条項は、民法の規定との比較を意識しながら、「自社にとって不当に不利な内容でないか」をよく確認する必要があります。
具体的には、損害賠償の範囲や上限額などから、「相手方の債務不履行による損害が相当程度カバーされているか」「自社の債務不履行による損害賠償が不当に広がり過ぎていないか」などをチェックすることが大切です。
契約トラブルのリスクを最小化するためには、契約書の作成や確認を弁護士に依頼するようにしましょう。
ベリーベスト法律事務所は、契約書に関するご相談を随時受け付けております。
また、ニーズに合わせてご利用いただける顧問弁護士サービスもご用意しております。
神奈川県小田原市や近隣市町村で企業を経営されている方は、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスにご相談ください。
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