仕事中の事故は労災? 労災保険が使えるケースと使えないケース

2024年02月05日
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仕事中の事故は労災? 労災保険が使えるケースと使えないケース

神奈川労働局が公表した令和4年の「署別・業種別労働災害発生状況[第2表](令和5年5月確定値)」によると、神奈川県内で労災により負傷(死亡を含む・以下同じ)した人の数は、1万6571人でした。そのうち、小田原労働基準監督署管内では661人の労働者が労災によって負傷しています。

仕事中や通勤途中で事故にあったり、怪我をしてしまったりした場合には、労働基準監督署による労災認定を受けることで、労災保険から補償を受けることができます。しかし、労災であるにもかかわらず、さまざまな理由から会社が労災認定の手続きを拒むケースがあるため、労働者自身でも労災に関する基本的知識を身に付けておくことが大切です。

今回は、仕事中の事故などで労災にあたるケースと労災にあたらないケースの区別、会社が労災申請を渋る場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。

1、仕事中の事故は労災? 労災になるケースならないケース

仕事中の事故はどのような場合に労災になるのでしょうか。以下では、労災になるケースとならないケースについて説明します。

  1. (1)通勤中の交通事故の場合

    就業場所への出勤や退勤など、通勤中に発生した労災のことを「通勤災害」といいます。

    通勤中の事故が労災として認定されるためには、以下の移動を合理的な経路および方法で行っている際に生じた事故であることが必要となります。

    労災と認められる交通事故の経路
    • 住居と就業場所の間の往復
    • 就業場所から他の就業場所への移動
    • 単身赴任先と帰省先の間の移動


    ① 通勤災害にあたるケース
    通勤中であっても、通勤とは関連しない目的で経路をそれたり(逸脱)、通勤経路上で通勤とは関係のない行為を行った場合(中断)、そのような逸脱や中断の間と、その後の移動は通勤とは認められません。
    しかし、通勤中に行う些細な行為は逸脱や中断には当たりませんし、逸脱や中断があっても、日常生活上必要な最小限度の行為であれば、その後の移動は通勤と認められる場合があります。

    これらを踏まえると、以下のケースは、通勤中に行う些細な行為や、日常生活上必要な最小限度の行為であるため、通勤災害に該当します

    • 通勤中に近くの公衆トイレを利用した際に転倒して怪我をした
    • 子どもを預けるために保育園に寄ってから会社に向かう際に事故に遭った
    • 退勤中に日用必需品を購入するためにスーパーに寄り、帰り道で事故に遭った


    ② 通勤災害にあたらないケース
    以下のようなケースについては、そもそも通勤中とは認められなかったり、通勤の逸脱があったり、通勤が中断している間に起きた事故であるため、通勤災害にあたらないと考えられます。

    • 出勤前の自宅で転倒し怪我をした
    • 恋人の住居から会社に出勤する途中で事故に遭った
    • 会社の終業後に同僚と居酒屋に寄った帰り道で事故に遭った
    • 退勤中に食料品や日用費を購入するために寄ったスーパー内で転倒して骨折した
  2. (2)仕事中の事故の場合

    仕事中の出来事が原因となって傷病を負うことを「業務災害」といいます。仕事中の事故が労災として認定されるためには、以下の要件を満たす必要があります。

    業務災害と認められる要件
    • 業務遂行性:労働者が労働契約に基づき事業主の支配または管理下にあること
    • 業務起因性:業務と災害との間に因果関係があること


    ① 業務災害にあたるケース
    上記の要件を踏まえると、業務災害に該当するケースとしては、以下のものが挙げられます。

    • 勤務中に機械の操作を誤って、指を切断した
    • タンク内の清掃中に有毒な化学物質を吸い込み中毒症状になった
    • 解体作業中に足場から転落した
    • 介護事業所で入所者を支えて歩いているときに転倒して骨折した


    ② 業務災害にあたらないケース
    以下のようなケースについては、業務災害にあたらないと考えられます。

    • 休憩時間中に同僚とキャッチボールをしている際に捻挫した
    • 地震や台風などの自然災害によって事故が発生した
    • 勤務中に個人的な恨みを持つ第三者から暴行を受けた
    • 労働者が故意に事故を発生させた

2、会社が労災申請してくれないときはどうする?

会社が労災申請してくれない場合には、どのように対処すればよいのでしょうか。

  1. (1)会社が労災申請を渋る理由

    会社が労災申請を渋るのには、以下のような理由が考えられます。

    ① 労災申請の手続きが面倒
    小規模な会社では、労災申請の担当者が決まっておらず、どのような方法で労災申請をすればよいかを十分に把握していないことがあります。そのため、手続きが面倒という理由で、労災申請を渋ることがあります。

    ② 企業イメージの低下
    労災が発生したことが世間に知られてしまうと、安全管理が不十分な会社というレッテルを貼られてしまい、企業イメージを損ねるおそれがあります。このような企業イメージの低下をおそれて、労災申請を渋ることがあります

    ③ 労災保険の保険料が上がってしまう
    一部の会社では、労災の届出をしてしまうと労災保険の保険料が増額してしまうことがあります。そのため、労災保険料の増額による負担を回避する目的で、労災申請を渋ることがあります
  2. (2)会社が労災申請をしてくれない場合の対処法

    会社が労災申請をしてくれない場合には、以下のような対処法が考えられます。

    ① 労働基準監督署に相談
    労災が発生した場合には、事業主は、遅滞なく「労働者死傷病報告書」を所轄の労働基準監督署に提出することが義務付けられています。このような義務を怠り、労働者死傷病報告書の提出をしなかった場合や虚偽の報告をした場合には、労働安全衛生法違反となり、50万円以下の罰金に処せられます。

    そのため、会社が労災隠しをするようであれば、まずは労働基準監督署に相談してみるとよいでしょう

    ② 労働者本人で労災申請
    労災申請は、労働者個人でも行うことができます。そのため、会社が労災申請をしてくれないという場合には、労働者個人で労災申請をするとよいでしょう

    なお、労災申請の書類には、会社の押印欄(事業主証明)がありますが、会社の協力が得られない場合には、労働基準監督署にその旨説明をすることで、会社の押印がなくても申請をすることが可能です。

3、交通事故でも労災を使った方がよいケース

通勤中に交通事故の被害にあった場合にも労災を使った方がよいのでしょうか。

  1. (1)通勤災害で使える保険とは

    通勤中に交通事故にあった場合には、以下のような保険を利用することができます。

    • 労災保険
    • 任意保険
    • 自賠責保険


    これらの保険は、併用して利用することもでき、被災労働者がどの保険を利用するかを自由に選ぶことができます。ただし、補償内容が重複する部分については、二重に保険金を受け取ることができませんので、すでに補償を受けた部分については、他の保険から補償を受けることはできません。

  2. (2)労災保険の利用が適しているケース

    交通事故で被害者の過失が大きい場合や過失割合に争いがあるような場合には、一般的に労災保険の利用が適していると考えられます。

    民事損害賠償においては、交通事故の被害者であっても、事故の発生に関して過失がある場合には、過失相殺によって賠償額が減額されてしまいます。しかし、労災保険では、過失割合に応じた賠償額の減額はありませんので、労災保険を先に利用した方が賠償額の減額ない分だけ有利な補償を受けることが可能です。

    ただし、労災保険では慰謝料の請求はできませんので、労災保険だけでは十分な補償が得られません任意保険や自賠責保険などの併用によって、適切な賠償を求めていくことが必要です

4、できるだけ早期に弁護士に相談すべきケース

以下のようなケースについては、できるだけ早期に弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)通勤中に交通事故にあったとき

    通勤中の交通事故の場合には、労災保険だけでなく、任意保険や自賠責保険を利用して補償を受けることができます。基本的には、どの保険にも優先関係はありませんので、被害者が自由に選択することができます。

    しかし、被害者に過失がある場合には、どの保険を利用するかによって、最終的に得られる補償額や賠償額が異なってくることもあります。

    そのため、まずは、弁護士に相談をして、どの保険を利用すべきかのアドバイスを求めるようにしましょう。また、過失割合に争いがあるケースでは、過失が1割変わるだけでも賠償額が大きく変わってきてしまいます。適切な過失割合とするためにも弁護士を介して加害者側と交渉することをおすすめします

  2. (2)仕事中の事故により死亡または重傷を負ったとき

    仕事中の事故によって当事者が死亡または重傷を負ってしまった場合には、被災労働者の家族が労災に関する手続きを行っていかなければなりません。

    しかし、十分な知識のない状態だと適切な補償を受けらないこともありますので、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。弁護士は被害者やご家族に代わって、適切な補償や賠償を受けられるように会社に求めます。

  3. (3)事故の原因が会社にあると考えられるとき

    労災保険では慰謝料を請求することができず、また、将来の収入の補償である休業損害の補償も十分とはいえません。

    仕事中の事故について会社に原因がある場合には、労災保険だけでは不足する部分について、会社に対して民事上の損害賠償請求をすることが可能です

    もっとも、会社に損害賠償請求するためには、労働者の側で会社の落ち度を主張立証していかなければならず、容易な手続きではありません。弁護士であれば、労災事案についての知識と経験に基づき、会社との交渉や裁判などによって、適切な賠償を求めていくことができます。

5、まとめ

仕事中や通勤中の事故によって負傷してしまった場合には、労災認定を受けることで、労災保険からさまざまな補償を受けることができます。しかし、労災保険給付だけでは十分な補償を受けられないケースも少なくないため、その場合は、会社への民事上の損害賠償請求も検討する必要があります。

会社への損害賠償請求にはさまざまな手続きや交渉が必要となるため、実績ある弁護士のサポートを受けることがおすすめです。労災による損害賠償請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスまで、まずはお気軽にご相談ください

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