個人再生をするとき、生命保険を解約する必要はある?

2023年08月28日
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個人再生をするとき、生命保険を解約する必要はある?

生命保険文化センターが令和3年に行った調査によれば、生命保険の世帯加入率は89.8%でした。

万が一への備えとして、生命保険は多くの方に利用されています。しかし、借金問題に対応するために債務整理を行う場合には、加入している生命保険をどのように扱うかについて迷われる方も多いでしょう。

本コラムでは、個人再生を行う場合に生命保険がどのように扱われるか、また生命保険の解約を検討したほうがいいケースについて、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。

1、個人再生の仕組み

基本的に、個人再生をする場合に生命保険の解約が必須となることはありません。
しかし、高額な解約返戻金がある生命保険に加入している場合は、弁済額に影響することがあります

以下では、個人再生手続の概要や弁済額が決まる仕組みについて解説します。

  1. (1)個人再生とはどんな手続き?

    個人再生という手続きの大きな特徴は、財産を処分することなく、借金を大幅に圧縮してもらえるという点にあります

    個人再生を利用できる要件は、「借金の総額が5000万円以下であること」と「継続的な収入があり、減額された借金を原則として3年以内に分割弁済できること」です。
    また、手続きの大まかな流れは以下の通りであり、再生計画の認可決定が確定すると弁済がスタートします。

    • ① 債権調査手続
    • ② 再生計画案(弁済計画)などの提出
    • ③ 債権者による再生計画案の決議
    • ④ 裁判所による再生計画の認可


    ②の「再生計画案」を作成するにあたっては、次項で説明するような「弁済しなければならない額」を上回る弁済計画を立てなければなりません。
    また、再生計画案の弁済能力も審査されるため、保有している財産や家計の状況についても詳しく報告する必要があります。

    また、③の「債権者による決議」では、債権者の数にして半数以上、債権額にして過半数以上の反対があると個人再生の手続きが否決され、打ち切られてしまう点に注意してください。

  2. (2)個人再生で弁済しなければならない額

    再生計画に盛り込む弁済額は、「借金総額による基準」と「保有している財産による基準」のうち、いずれか高額なほうが最低ラインとなります

    ① 借金の総額による基準
    借金の総額による最低弁済額は、以下のように定められています。

    借金の総額 最低弁済額 参考:毎月の弁済額の
    目安(弁済期間3年)
    100万円未満 全額 ~2万8000円
    100万円以上500万円未満 100万円 2万8000円
    500万円以上1500万円未満 借金総額の5分の1 2万8000円~8万4000円
    1500万円以上3000万円未満 300万円 8万4000円
    3000万円を超え5000万円以下 借金総額の10分の1 8万4000円~13万9000円

    借金総額が100万円以下の場合、借金は減額されないため、個人再生を利用するメリットはありません。
    なお、3年の弁済期間に関しては、特別な事情がある場合に限り、最大5年まで延長することが認められる場合もあります。

    ② 保有している財産による基準
    個人再生は財産を処分する必要がない手続きですが、高額な財産が残っているのに借金だけをカットできてしまうと、他の債務整理の手続きに比べて、債権者たちにとっては不公平になります。

    そのため、個人再生では「自己破産をした場合に債権者へ配当しなければならない財産の額(清算価値)」も、弁済額を定める基準となっています。
    自己破産をした場合、原則として一部の財産は「自由財産」として保有することが認められており、それらの財産以外で換金価値のあるものが清算価値ということになります。
    自由財産の具体的な内容は、下記の通りです。

    • 99万円以下の現金
    • 家財道具
    • 差し押さえが禁止されている財産(給与や退職金の4分の3、公的年金など)


    なお、これ以外の財産についても、裁判所の基準や裁量により清算価値から除外される場合があります。
    生命保険の清算価値については第2章で、生命保険以外の主な財産の清算価値については第4章で、詳しく解説します。

    ③ 給与所得者等再生は弁済額が高額になりやすい
    企業などにお勤めの方や自営業の方が利用する「個人再生」といわれる手続きの裁判所における正確な名称は「小規模個人再生」です。
    そして、小規模個人再生には「給与所得者等再生」という手続きも含まれています。

    給与所得者等再生とは、収入が安定しているサラリーマンの方が利用できる、小規模個人再生の特則ともいえる手続きです。
    給与所得者等再生では、債権者の決議が行われないため、債権者の意向に左右されないメリットがあります。
    ただし、弁済額を定める基準に「可処分所得の2年分以上の額」が加わるというデメリットもあります。

    「可処分所得」とは年間の収入から税金や社会保険料と政令で定める生活費を控除した残額、収入が高額な方ほど弁済額も大きくなります。
    さらに、給与所得者等再生で再生認可決定を受けると、向こう7年間、再度給与所得者等再生をすることができなくなり、自己破産をする場合には免責不許可事由となってしまいます。
    そのため、給与所得者等再生は「債権者の反対により小規模個人再生は難しいが、自己破産は避けたい」といった場合に、とくに有力な選択肢となるでしょう

2、生命保険の解約を検討したほうがいいケース

個人再生では、生命保険を解約した場合に支払われる解約返戻金も財産とみなされて、清算価値として評価されます。
個人再生を行う際に生命保険の解約を検討するケースとしては、再生計画の弁済額に影響する場合と、保険料の支払いが家計の負担になる場合とが考えられます。

以下では、それぞれのケースについて解説します。

  1. (1)再生計画の弁済額に影響する場合

    横浜地方裁判所管内(神奈川県内)で個人再生をする場合、加入している生命保険の解約返戻金が20万円(火災保険などがある場合は合計額)を超えると清算価値に算入されます。
    清算価値として考慮される生命保険は、個人再生をする方が契約者となっているものに限られ、ご家族が契約しているものは含まれません。

    たとえば、「100万円の解約返戻金がある生命保険に加入しており、ほかに100万円の預貯金などがある」という場合には、清算価値は200万円となります。
    この場合には、借金の総額が800万円であれば、借金総額の5分の1(160万円)ではなく、清算価値の200万円以上を弁済する再生計画案を作成する必要があります。
    このようなケースにおいては、生命保険を解約することも選択肢となるでしょう。

    なお、生命保険を解約することにした場合でも、解約返戻金の使途には注意が必要になります
    この点については、契約者貸付の注意点とも共通するため、第3章で解説します。

  2. (2)保険料の支払いが負担となる場合

    再生計画が認可されるためには、弁済額が基準を満たすことのほか、再生計画どおりに弁済する能力があることも必要になります。
    そのため個人再生を申し立てる際には、同居家族の分も含めた直近2か月から3か月程度の家計簿の提出が求められるほか、申し立て後の家計の状況についても報告が求められることがあるのです。

    生命保険契約を維持する場合には、家族が契約している生命保険の保険料についても明らかにしなければなりません。
    保険料の負担で弁済に支障が出ると判断された場合には、生命保険の解約を裁判所から推奨される可能性もあります

  3. (3)任意整理や自己破産をする場合は?

    以下では、個人再生ではなく任意整理や自己破産により債務整理をする場合には生命保険がどのように扱われるのかについて、参考までに解説します。

    任意整理とは、債権者と交渉して利息などをカットしてもらい分割弁済する手続きであり、債務整理の方法としては自由度の高いものです。
    任意整理自体について生命保険が支障となることはほとんどありませんが、高額な保険料が負担になっている場合は、契約の見直しや解約を検討したほうがいい場合もあります

    自己破産は財産の処分が必要な手続きであり、横浜地裁管内では20万円を超える解約返戻金がある生命保険は、破産管財人により解約されてしまいます。
    ただし、財産を維持できるか処分されるかの基準は裁判所の裁量によるところも大きく、生命保険契約を解約されると再加入が難しくなるなどの事情がある場合には、契約の維持が認められることもあります。
    なお、「収入や財産と比較して不相応な保険料を支払っている」と判断された場合には、個人再生の場合と同じく、生命保険の見直しや解約を裁判所から推奨される可能性があります。

3、解約返戻金や契約者貸付の注意点

解約返戻金がある生命保険は、解約返戻金の一定範囲内で貸し付けを受けられるものもあります。
一般的には「契約者貸付」と呼ばれますが、実際には「解約返戻金の前払い」といえる性質のものです。

解約返戻金や契約者貸付金の違いは「生命保険契約として保有しているか、換金しているか」という点だけであり、清算価値として評価されることには変わりありません。
しかし、これらのお金の使途には注意が必要になります。

自動車ローンや友人や親戚からの借金など一部の債権者のみへ返済することは、財産を減少させて他の債権者の利益を害する、「偏頗(へんぱ)弁済」といわれる行為に該当する可能性があります。
偏頗弁済とされた弁済金は清算価値に算入されるだけではなく、裁判所や債権者から「不誠実な債務者だ」という目を向けられることにもなりかねません。
また、解約返戻金や契約者貸付金を生活費として使用すると、再生計画を実行するだけの弁済能力に疑問を持たれるおそれもあるのです。

生命保険を解約したり、契約者貸付を受けたりした場合には、裁判所へその使途を説明する必要があります。
債務整理を検討されているが生命保険の扱いに迷われている方は、ご自身だけで判断するのではなく、弁護士などの専門家に相談しましょう

4、個人再生と不動産、他の保険、退職金、自動車との関係

以下では、生命保険以外の財産が個人再生ではどのように扱われるのかについて解説します。

① 不動産
基本的に、不動産の評価額が清算価値となりますが、住宅ローンのように抵当権などが設定されている不動産についてはローンの残債を控除した金額が清算価値となります。
なお、個人再生をすると抵当権付きの不動産は抵当権が実行されてしまいますが、居住している自宅の住宅ローンに限り、住宅ローン特則を利用できる場合があります。
「住宅ローン特則」とは、住宅ローンの弁済はそのまま行い、住宅ローン以外の借金を減額してもらえるというものです。
ただし、住宅ローン特則を利用するためには複雑な要件を満たす必要があります。

② 生命保険以外の保険解約返戻金
養老保険や学資保険に火災保険など解約返戻金がある保険や、解約すると前払いした保険料が返金される場合には、返戻金や返金額が清算価値となります。

③ 退職金見込額
個人再生をする場合には、再生計画認可の時点で退職した場合に支給される退職金見込額の4分の1が清算価値となります。
ただし、個人再生をする段階で退職の予定がない場合には、退職金見込額の8分の1が清算価値となります。

④ 自動車
基本的に車の査定額が清算価値となりますが、所有権留保特約付きの自動車ローンの残債がある場合はローン残額を控除した残額が清算価値となります。
個人再生をすると所有権留保が設定された自動車は引き揚げられてしまう可能性もありますが、収入を得るために自動車が必要な場合には「別除権協定」という方法で所有権留保を外してもらうことができます。

⑤ 神奈川県内で個人再生をする場合の取り扱い
横浜地方裁判所管内(神奈川県内)で個人再生をする場合には、預貯金・退職金見込額・保険解約返戻金・自動車の4種類の財産は、その種類ごとに合計額が20万円以下の場合、清算価値は0円と評価されます。
たとえば、契約している生命保険や火災保険の解約返戻金合計額が50万円、預貯金の合計額が100万円、自動車の査定額が10万円であれば、清算価値は150万円と評価されるのです。

5、まとめ

個人再生をする場合に生命保険の解約が強制されることはありませんが、高額な解約返戻金があると弁済額に影響する可能性があります。
「個人再生をするなら生命保険の解約したほうがいい」と言えるケースもありますが、解約返戻金や契約者貸付金の使途については注意が必要です。

個人再生やそのほかの債務整理の制度は複雑であり、専門家でない一般の方にとってはわからないことが多く利用するハードルも高く感じられるでしょう。

ベリーベスト法律事務所では、借金問題に悩まれているお客さまのご要望をふまえて、最適な債務整理の方法をご提案いたします。
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