飲み物に異物混入して罪に問われるケースとは? 事業者と個人の違い
- その他
- 飲み物
- 異物混入
- 罪
2022年、会社同僚の飲み物に体液を混入させたとして、大阪府内の男性が逮捕されました。
他人の飲み物に異物を混入させると、暴行罪や器物損壊罪が成立する可能性があります。また、食品メーカーなどの事業者が誤って異物混入した場合は、食品衛生法によって、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
異物混入した場合、個人と事業者それぞれがどのような罪に問われるのか、逮捕や起訴の対策も含めて、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。
1、個人が飲み物に異物を混入させた際に問われる罪
個人が他人の飲み物に異物を混入させると、たとえ、それが毒物でなかったとしても逮捕や起訴されるおそれがあります。
毒物を入れた場合と毒物以外を入れた場合、それぞれどのような罪が成立する可能性があるか、具体的な事案を挙げながら解説していきます。
-
(1)毒や薬物などを混入させた場合
毒や薬物を飲み物に混入させると殺人罪(刑法199条)に問われる可能性があります。
実際の事件を参考にしながらどのような罪が成立するか、見ていきましょう。ケース1|トリカブトの毒を同僚女性のペットボトルに入れた事件
同僚の女性のペットボトルの中に、トリカブトに含まれる毒「アコニチン」を入れ飲ませたとして、社内の男性が逮捕された事件がありました。この事件で、被害者の女性は急性毒物中毒になり、犯人は、傷害罪の容疑で逮捕されています。
被害女性の命に別条がなかったことから傷害罪で逮捕されていますが、取り調べで殺意があると判断されれば、殺人未遂罪で起訴される可能性もあった事件です。仮に殺人未遂罪が成立すると、死刑または無期もしくは5年以上の懲役に処されます。
ケース2|メチルアルコールを飲み物に入れ夫を殺害しようとした事件
この事件では、夫を殺す目的で、メチルアルコールを飲み物に混入させ、複数回飲ませたという事件です。被害者である夫が、メチルアルコールを摂取したことでめまいや吐き気、大幅な視力の低下があり、病院を受診したところ、メチルアルコール中毒と判断され、病院が警察に通報して発覚しました。
この時の犯人は、殺人未遂罪で逮捕されています。このように毒や薬物を飲み物に混入させると、殺人罪や傷害罪に問われる可能性が高いです。
-
(2)体液など毒物以外を混入させた場合
毒性のない体液などを混入させた場合には、暴行罪や器物損壊罪が成立する可能性が高くなります。
毒物以外を混入させたケースについて確認しておきましょう。ケース1|同僚の飲み物に尿を混入させた事件
同僚女性の飲み物に尿を混入させた男性が逮捕された事件です。この事件では、飲み物の味に違和感を覚えた被害者が上司に相談し、職場に防犯カメラを設置したことで犯行が発覚しました。この事件で被害者に健康被害は生じませんでしたが、犯人は、暴行罪と器物損壊罪の容疑で逮捕されました。
① 暴行罪とは
暴行罪とは、暴力だけではなく、物を投げたり体液をかけたり、耳元で大声を出した場合にも成立する可能性があります。今回のケースでは、直接体液をかけたわけではありませんが、飲み物に入れることで体液をかけたと同視できると判断され、暴行罪の嫌疑がかかっています。
また、尿を飲ませたことで病気になったり、被害者がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したりすれば、傷害罪が成立する可能性もあります。
暴行罪が成立すると2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処されます。傷害罪の場合には、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されることになります。
② 器物損壊罪とは
器物損壊罪とは、物の利用価値を損なうことにより成立する罪です。したがって、実際に物が壊れなくても、尿などの体液を個人のマグカップなどに入れられたことで、対象物を心理的に使うことができなくなった場合にも、器物損壊罪が成立する可能性があります。
器物損壊罪が成立すると、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料に処されます。ケース2|同僚女性の飲み物に体液を入れた動画をSNS上に投稿した
同僚女性の飲み物に体液を混入させる動画を、SNS上に投稿したアカウントが拡散されました。同社では該当社員との契約を解除し、警察も捜査をしていると報道されています。
この事件もケース1同様、器物損壊罪や暴行罪が成立する可能性がとても高いと考えられます。また、SNS上に動画を公開した証拠があるため、容疑を否認することは難しい事案といえます。
他人の飲み物に異物を混入してしまった場合には、逮捕や起訴される前に、まずは謝罪や示談による解決ができないか検討しましょう(4章で後述)。ただし被害者の処罰感情が強いケースも多いため、心当たりがある方は、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
2、事業者が販売した飲み物に異物を混入したら何の罪?
事業者が誤って、販売した飲み物に異物を混入させてしまった場合、刑法上の罰を受けることはありません。
しかし、食品衛生法によって、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。また、保健所からの改善命令や営業禁止など行政処分を受ける可能性もあります。
① 食品衛生法とは
食品衛生法とは、飲食による健康被害の発生を防止するための法律です。
食品衛生法6条4号には、「不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの」を販売してはならないと規定しています。違反した場合には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます(同法81条1号)。
もっとも、髪の毛が入ってしまったり、虫が混入してしまったりと、注意していてもすべての混入を防ぐことができない場合もあります。そのため、必ずこの罰則が適用されるわけではありません。
② 行政処分とは
行政処分とは、行政機関が法律に基づいて、一方的に国民の権利や義務に直接影響を及ぼす行為をいいます。たとえば、スピード違反をした場合に科せられる、免許の取り消しや停止が行政処分にあたります。
異物混入の場合、保健所の検査の結果、混入内容が重大なものと判断されると、設備の改善命令や営業停止命令を受けることがあります。行政処分は、行政機関が法律に基づいて命令しているため、無視することはできません。
また、行政処分情報が広く公開されるケースもあり、SNSやテレビ、新聞、ネットニュースなどの報道で企業イメージが著しく低下するリスクもあります。
お問い合わせください。
3、公共の水道水に異物を混入させたらどうなるのか
公共の水道水に異物を混入させると水道毒物等混入罪(刑法146条)が成立する可能性があります。
す。
水道毒物等混入罪が成立すると、2年以上の有期懲役が科されます。また、飲んだ人が死亡した場合には、死刑または5年以上の懲役が科されることになります。
4、警察から連絡が来た時点で弁護士に相談を
異物混入などをすると、後日警察から連絡が来る可能性があります。警察から連絡が来た後、どのような順序で逮捕や起訴へと進むのか、起こる可能性があることから確認しておきましょう。
-
(1)警察から任意同行を求められる
警察から連絡があった場合、まずは警察署で話を聞けないか確認されます。いわゆる事情聴取になりますが、この時点ではあくまで「任意」のため、断ることが可能です。
もっとも、警察から連絡が来ている時点で、被害届の提出や刑事告訴されている可能性が極めて高く、すでに捜査が始まっていると考えてよいでしょう。そのため、任意であっても素直に協力する姿勢をとることが大切です。
また、罪の軽減を目指すのであれば、早期に弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、事情聴取の受け答え方や被害者への謝罪、示談交渉など、さまざまな弁護活動でサポートします。 -
(2)逮捕される
警察の捜査によって、犯罪行為をした可能性が高いと判断されると、逮捕されることになります。逮捕の際は、予告なく警察官が家にやってきて、逮捕状を呈示された上で警察署に連行されます。その後、警察の取り調べを受け、嫌疑が晴れなければ、検察でも取り調べを受けることになります。
検察に送致されると、最長20日間勾留され、釈放されない限り、家に帰ることはできません。 -
(3)起訴され裁判を受ける
検察の取り調べにより起訴が決定すると、1~2か月後に裁判になります。裁判では、有罪か無罪か、どのくらいの罰が妥当か、などについて審理されます。そして、犯罪をしたと裁判官が判断すると、有罪判決が言い渡されます。
-
(4)有罪判決後
有罪判決が確定すると、刑務所に収容されます。もし、執行猶予がつき刑務所へ入らなかったとしても前科がつきます。前科がつくと、就職や結婚など人生に大きな影響を与えます。また実名報道された場合は、インターネット上に事件や名前が残り、その後のプライバシーに大きな被害を及ぼす可能性が高まります。
-
(5)逮捕・起訴前の弁護活動が重要
刑事事件において、逮捕や起訴される前の弁護活動は非常に重要です。なぜなら、日本の刑事裁判では、起訴されてしまうと90%以上の確率で有罪判決となるからです。そのため、起訴前に被害者と示談交渉をしたり、身柄解放に向けた弁護活動をしたりする必要があります。
また、逮捕されただけで、周囲に犯罪をした可能性があると思われ、仕事を失ってしまうケースもあります。社会生活に被害が及ぶことを防ぐためにも早期の段階で弁護士に相談することが肝心です。
5、まとめ
毒物はもちろん、体液などの異物を飲み物に混ぜると、暴行罪や傷害罪、器物損壊罪が成立する可能性があります。異物混入により、逮捕・起訴され前科がつくと、就職や結婚など、今後の人生に大きな影響が生じてしまいます。
刑事事件は、非常にスピーディーに進むことが多いため、逮捕・起訴前の早い段階で弁護士に相談することが重要です。
ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスでは、刑事事件の解決実績がある弁護士が問題解決に向けてサポートいたします。「思い当たる行為をしてしまった」という方は、おひとりで悩まず、当事務所の弁護士までお早めにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています