遺言書に時効はある? 相続後に遺言書が見つかったときの対応方法

2022年04月04日
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遺言書に時効はある? 相続後に遺言書が見つかったときの対応方法

小田原市が公表している『令和元年版 小田原市統計要覧』によると、令和元年度の小田原市内の死亡者数は2250人でした。一方で、出生数は1193人と死亡者数の約半数です。人の誕生や死亡は、さまざまな事柄に影響を与えますが、相続もそのひとつといえます。

父親が死亡して、遺産分割協議を終えた後、実家の整理をしていたら遺言書が見つかった……。このような場合にはどのようにすればよいのでしょうか。被相続人が死亡してから長期間が経過しており、すでに遺産の分配も終えていることから、後で見つかった遺言書は無効になると考える方もいるかもしれません。

今回は、遺産分割後に遺言書が見つかったときの対応方法について、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。

1、遺言書と時効の関係

遺産分割を終えてから長期間経過した後に発見された遺言書は、有効なのでしょうか。まずは、遺言書と時効との関係について説明します。

  1. (1)遺言書に時効はない

    遺言は、民法第985条1項において「遺言者が死亡したときから効力を生じる」と規定されているため、たとえ遺産分割を終えてから遺言書が発見されたとしても、遺言書が無効になることはありません。
    また、遺言書の効力について、民法は消滅時効などの期間制限を設けてはいないので、遺言書の効力が時効によって消滅することはありません。

    なお、相続に伴い発生する可能性がある相続放棄や遺留分侵害額請求権には、民法上、権利を行使することができる期間が定められています。また、相続税の申告に立っても期限が設けられているので注意が必要です。

  2. (2)複数の遺言書が見つかった場合

    遺言書に期限がないとすると、被相続人が生前に複数の遺言書を作成していた場合に、どの遺言が優先するのかが問題となります。

    この点、民法第1023条1項では、「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」と規定しています。
    つまり、複数の遺言書が存在する場合には、遺言の内容が抵触する部分に関しては、新しい遺言書を優先することになります

    一方で、複数の遺言書が存在していたとしても、それぞれの遺言書の内容に抵触する部分がない場合には、すべての遺言書が有効となります。
    たとえば、次のように、3通の遺言書が見つかったケースです。

    1通目の遺言書:A不動産を長男に相続させる
    2通目の遺言書:B不動産を次男に相続させる
    3通目の遺言書:C不動産を三男に相続させる


    この3つの遺言書の内容は、どれも抵触することなく同時に実現することができるものですので、すべての遺言書が有効となります。

2、整理しておきたい遺言書の種類

遺言書が見つかった場合、遺言書の種類によっては、家庭裁判所の検認手続きを経る必要があります。そのため、どのような種類の遺言書が残されていたかも重要になります。
遺言書にはいくつかの種類がありますが、「自筆証書遺言」または「公正証書遺言」で作成されるのが一般的です。

  1. (1)自筆証書遺言

    自筆証書遺言とは、その名のとおり、遺言者本人が自筆で作成した遺言書のことをいいます。
    自筆証書遺言は、遺言者本人のみで作成することができる遺言書で、基本的には費用もかからないことから、誰でも簡単に作成できます。

    しかし、自筆証書遺言は、民法が規定する要件をひとつでも欠くと無効になってしまうので、作成にあたっては十分に注意しなければなりません。
    民法が定める自筆証書遺言の要件は、次のとおりです。

    • 遺言者本人が自書すること
      自筆証書遺言は、遺言者本人が書かなければなりません。そのため、パソコン等で作成した遺言書は、自書の要件を満たしておらず無効となります。
      ただし、民法改正により、財産目録に限ってはパソコンを利用して作成することが認められています。
    • 日付を記載すること
      自筆証書遺言は、作成した日付を記載しなければなりません。日付は、年月日まで記載する必要があるので『令和3年1月吉日』、『令和3年1月』、『1月1日』といった記載では無効になります。
    • 署名をすること
      自筆証書遺言は、遺言者がその氏名を記載しなければなりません。たとえば、ゴム印での氏名の記載は、署名の要件を満たさず無効となります。
    • 押印すること
      自筆証書遺言は、遺言書への押印が必要になります。押印する印鑑については、特に決まりはありませんので、実印ではなく三文判による押印であっても有効です。


    なお、遺言書の作成者(被相続人)の死後、自筆証書遺言を発見した場合は、家庭裁判所の検認手続きを経る必要があります。ただし、法務局で保管されていた遺言書については、検認は不要です

  2. (2)公正証書遺言

    公正証書遺言とは、遺言者が公証人に対して遺言の内容を伝え、公証人が作成する遺言書のことをいいます。公正証書遺言の要件は、民法第969条において定められています。

    • 証人2名以上の立ち合いがあること
    • 遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記し、公証人がこの筆記したものを遺言者および証人に読み聞かせまたは閲覧させること
    • 遺言者および証人が筆記の正確性を承認した後、各自これに署名し、印を押すこと
    • 公証人が、その証書の方式に従って作成した者である旨を付記して、これに署名し、印を押すこと


    公正証書遺言は、公証人が関与して作成する遺言書ですので、自筆証書遺言と比べて形式の不備による無効のリスクを軽減することができます。また、公証役場で遺言書を保管してもらえるので、遺言者の死後、遺言書が発見されないというリスクも軽減することができます。

3、遺産分割が終わった後に遺言書が見つかった場合

遺言書に時効がないとすると、遺産分割後に遺言書が見つかった場合、遺産分割協議と遺言書のどちらが優先されるのでしょうか。

  1. (1)原則として遺言書が優先される

    遺産分割協議と遺言書では、原則として遺言書が優先されることになります。

    被相続人による遺言書が存在している場合には、被相続人の死亡によって遺言書は効力を生じることになり、相続人が特別な行為を要することなく、当該遺産は相続人に承継されることになるためです。
    したがって、遺産分割協議が終わった後に、被相続人の遺言書が見つかった場合には、すでに成立した遺産分割協議は無効となるので、いったん白紙に戻して遺産分割のやり直しをする必要があります

  2. (2)相続人全員の合意があれば遺産分割協議を優先させることも可能

    原則として遺産分割協議よりの遺言書が優先することになりますが、一切例外を認めないとすると、相続人らには、さまざまな不都合が生じることがあります。

    そのため、次にあげる一定の事由に該当せず、かつ相続人全員の合意があれば、例外的に遺言書よりも遺産分割協議を優先させることが可能です。

    • 遺言と異なる遺産分割を禁止している場合
      民法第908条では、遺言により遺産分割を禁止することを認めています。そのため、被相続人が遺言によって遺産分割を禁止した場合には、被相続人の意思を尊重し、相続人全員の合意があっても遺言書が優先することになります。
    • 遺言執行者が選任されている場合
      遺言執行者が指定されている場合には、民法第1013条1項の規定により、「相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」とされています。
      遺言執行者が指定されている場合に、遺産分割協議を優先させるためには、相続人全員の合意だけでは足りず、遺言執行者の合意も得る必要があります。
    • 相続人の廃除がされている場合
      遺言によって相続人の廃除がなされている場合には、当該相続人の相続権は失われることになります。そのため、廃除された相続人が関与した遺産分割協議は、本来相続できない人が関与したことになるので、無効となります。

4、再分配が難しい場合はどうすればよい?

遺産分割協議と遺言書では、遺言書が原則として優先されますが、状況によっては再度の遺産分割協議が難しい場合もあります。

たとえば、遺産分割協議が成立してからすぐに遺言書が発見されればよいですが、何十年もたった後に遺言書が発見された場合には、すでに被相続人の死亡当時の遺産は分散してしまっていることが多いでしょう。被相続人の死亡当時の資産価値と、発見時では資産価値も大きく変動していることもあります。

このような場合に、後から発見された遺言に基づいて遺産の再分配を行うことは、相続人だけでなく第三者を巻き込んだトラブルに発展するおそれもあります。
そのため、再分配が難しい場合には、当初の遺産分割協議を有効なものとするように相続人全員が合意をするか、各相続人が納得できる方法を柔軟に考えていくようにするとよいでしょう

どのような方法を選択するかについては、当時の相続財産と現在の相続財産の状況を比較検討するなどしながら慎重に判断する必要があるので、弁護士に相談をしながら進めていくことをおすすめします。

5、まとめ

被相続人が生前に遺言書を作成していたとしても、相続人にそのことを知らせていなかった場合には、遺言書が発見されることなく遺産分割協議がなされる可能性もあります。

原則として遺言書が優先とされますが、後日、遺言書が発見されたとしても当初の遺産分割協議を有効なものとして扱うことも可能です。しかし、遺言書の内容次第では、当初の遺産分割協議の内容では不利になる相続人から不満が出ることもあるので、弁護士の助言を受けながら手続きを進めていくとよいでしょう。

後日発見された遺言書の取り扱いでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスまでお気軽にご相談ください。
相続問題の対応実績が豊富な弁護士が、トラブル解決までしっかりとサポートします。

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