死後事務委任契約でトラブルが発生するケースとは? 対処法も解説

2024年01月11日
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死後事務委任契約でトラブルが発生するケースとは? 対処法も解説

小田原市が公表している「小田原市統計要覧」によると、令和3年の小田原市内の死亡者数は、2307人でした。小田原市内の人口は、平成11年の20万695人をピークに年々減少傾向にありますが、その反対に死亡者数は増加傾向にあり、令和2年の死亡者数が昭和15年以降ピークとなっているのです。

ご自身が死亡された後には、葬儀、納骨、埋葬などの相続手続以外の事務手続が必要になります。特に身寄りのない方の場合には、死後の事務手続を行ってくれる相手がいないことらから、自分の死後のことについて不安を抱いてしまうでしょう。

そのような場合は、生前に死後事務委任契約を締結することによって、安心して死亡後の手続きを任せることができます。本コラムでは、死後事務委任契約でトラブルが発生するケースやその対処法について、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスの弁護士が解説します。

1、死後事務委任契約でトラブルが発生しやすいケース

死後事務委任契約では、以下のようなトラブルが発生することがあります。

  1. (1)運営会社の経営破綻

    死後事務委任契約とは、死後のさまざまな事務手続きを生前に依頼する契約です。
    契約時から亡くなるまでの期間が長くなると、死後事務委任契約を依頼した運営会社が経営破綻してしまう可能性もあります
    運営会社が経営破綻してしまった場合には、死後事務委任契約で依頼していたさまざまな事務手続きを行ってもらうことができなくなってしまいます。また、契約時に預託金を支払っていた場合には、預託金の返還を受けることもできないという事態にもなりかねません。

  2. (2)契約内容をめぐるトラブル

    死後事務委任契約は、委任者の死後に契約内容にしたがって、葬儀・納骨・埋葬・家財道具の処理などの手続きを行っていくことになります。
    葬儀や遺品整理、財産の帰属は相続人の専権事項です。死後事務委任契約の内容が相続人の意思に反する場合には、死後事務委任契約の受任者と親族との間で対立が生じてしまい、スムーズに事務処理を行うことが難しくなってしまいます。トラブル防止のために、親族がいる場合はあらかじめ親族の同意を得ておくことが大切です。
    また、死後事務は委任した人が亡くなった後にスタートするため、死後事務委任契約の内容を本人に意思の確認をすることができません。事前に契約書を作成して具体的な事務内容を記載しておかなければ、契約内容をめぐるトラブルが発生してしまうのです。

  3. (3)無資格者によるトラブル

    死後事務委任契約は、弁護士などの専門的な資格を有していない方でも行うことが可能です。しかし、死後の事務処理の中には、相続手続に関するものが含まれることがあります。
    このような相続手続については、専門家である弁護士でなければ行うことができません
    無資格者が遺産分割などの相続手続に関与すると、間違った対応によって深刻な被害を受ける可能性があります。

2、死後事務委任契約で実現できること

以下では、死後事務委任契約とはどのような内容の契約であるか、死後事務委任契約を締結することによってどのようなことが実現できるかについて解説します。

  1. (1)死後事務委任契約とは

    死後事務委任契約とは、委任者が生前に受任者との間で死後の事務に関する委任する委任契約の一種です。
    一般的な委任契約は委任者の死亡によって終了してしまいますが、「死後も契約を終了させない」という特約を設けておくことによって、委任者の死後も契約に基づいて事務処理を行うことが可能になります。

    死後の事務手続については、死後事務委任契約によらず、亡くなった方の親族や相続人が手配することが一般的です。しかし、身寄りのない方の場合や、親族が遠方に住んでいるため対応ができないような場合には、信頼できる第三者との間で死後事務委任契約を締結しておくことによって、滞りなく死後の事務処理を進めることが可能となります。

  2. (2)死後事務委任契約によってできること

    死後事務委任契約の内容とされる事項には、さまざまなものがあります。
    代表的な事項としては、以下のものが挙げられます。

    • 遺体の引き取り
    • 葬儀、法要、納骨、埋葬の実施
    • 遺品整理
    • 医療費などの未払い債務の清算
    • 親族や友人への連絡
    • 電気、ガス、水道などの停止
    • ペットの世話

3、身元保証契約や遺言書との違い

死後事務委任契約と混同しやすいものとして「身元保証契約」や「遺言書」があります。
以下では、それぞれの概要と死後事務委任契約との違いについて説明します。

  1. (1)身元保証契約とは

    医療機関への入院や介護施設への入居際に身元引受人となって医療費や施設利用料の支払いを保証する契約のことを身元保証契約と呼ぶことがあります。
    身元保証契約の中には、緊急時の親族への連絡や買い物の手伝いといった日常生活支援サービス(財産管理委任契約)についても契約内容に含まれているものがあります。

    死後事務委任契約と身元保証契約は、いずれも生前に契約をするという点で共通します。
    しかし、身元保証契約は、主に契約者の生前に関与していく契約内容ある一方で、死後事務委任契約は、契約者の死後に関与していく契約です。そのため、それぞれの契約が登場する場面が異なっています。

  2. (2)遺言書とは

    遺言書とは、主に自分が亡くなった後の財産の処分について最終の意思表示をする書面のことをいいます。
    生前に遺言書を作成することによって、自分の思うように財産を分配することができるだけでなく、遺産分割協議によって生じるトラブルを防止することも可能になります。

    一般的に利用される遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
    自筆証書遺言は、いつでも手軽に作成することができるというメリットがありますが、不慣れな方では法定の要件を満たさずに無効になってしまうリスクもあります。公正証書遺言は、無効になるリスクや紛失・改ざんのリスクが少ないというメリットがありますが、公証役場の公証人が作成する遺言書であるため、自筆証書遺言に比べて手間と費用がかかるというデメリットがあります。

    死後事務委任契約と遺言書は、いずれも死後のことについて取り決めたものになりますが、遺言書は主に相続手続に関するものである一方で、死後事務委任契約は相続手続以外の事務処理について定めたものであるという違いがあります。
    遺言書であっても、付言事項として死後の葬儀、納骨、埋葬など希望を記載することができますが、法的効力は存在しないために、相続人は被相続人の希望に従う義務がありません
    これに対して、死後事務委任契約で葬儀、納骨、埋葬などを記載した場合には、受任者は契約内容を遂行する義務が生じますので、葬儀、納骨、埋葬などの事務処理を確実に行ってもらいたいという場合には、死後事務委任契約という形式で契約をする必要があるのです。

4、トラブルにならないための対処法

死後事務委任契約に関してトラブルが生じないようにするためには、以下のような対処が必要になります。

  1. (1)契約内容を明示した契約書の作成

    死後事務委任契約に関しては、どのような契約をしたのかを巡って、契約者の死後に親族とトラブルになることがあります。葬儀、納骨、埋葬などを死後事務委任契約によって受任者に任せる場合には、単に「葬儀を依頼する」とだけ記載するのではなく、死亡時に連絡する人、葬儀を執り行う宗教団体や葬儀社、葬儀費用の上限などについて、できる限り詳細に決めておくことが大切です。
    また、口頭での合意でも死後事務委任契約は成立しますが、口頭だけの契約だと契約の存在や内容を第三者に証明することができません。そのため、「報酬金額」、「支払時期」、「受任者はその管理する委任者の財産からその支払いを受けることができる。」など死後事務の内容を明確にした死後事務委任契約書を作成するようにしましょう。

  2. (2)遺言書の活用

    死後事務委任契約は、死後の事務処理について代理手続をするものであり、死後の財産の処分に関する事項を定めることができません。

    身寄りのない方であっても、多くの場合には、生前に親交のあった方や身の回りの世話をしてくれた方などがおられるでしょう。遺言書を作成することによって、その方々に対して、遺産を渡すことが可能になります。
    遺産の分配は死後事務委任契約の範疇でないため、遺言書の併用を検討しましょう。死後事務委任契約と遺言書を一緒に利用することによって、より充実した対応が可能になります。

  3. (3)弁護士への相談

    死後事務委任契約を検討中の方は、まずは弁護士に相談をすることをおすすめします。死後事務委任契約で実現することができる内容は多岐にわたるため、どのような内容を定めるのが適切であるかは、人それぞれによって異なってきます。

    弁護士であれば、具体的な希望や状況に応じて適切な内容を提案することが可能です。また、弁護士が受任者となって死後事務委任契約を遂行することも可能ですので、死後事務委任契約の運営会社が経営破綻してしまうというリスクも回避することができるのです。

    なお、ベリーベスト法律事務所では、介護施設、訪問看護、クリーンサービス(生前整理・遺品整理)、葬儀、エンゼルケア(湯灌・メイク)等を必要とされている方に向けて、介護事業者や葬儀社のご紹介をすることもできます。

5、まとめ

身寄りのない方や家族に迷惑をかけたくないという方は、生前に死後事務委任契約を検討してみてはいかがでしょうか。
死後事務委任契約を利用することによって、死後の事務処理を確実に行ってもらうことができますので、亡くなったしまった後の不安も解消されるでしょう。

ただし、死後事務委任契約には、トラブルが生じることもあります。
死後事務委任契約をお考えの方は、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします
神奈川県小田原市や近隣市町村にお住まいで、死後事務委任契約や遺言書の作成をご検討の方は、ベリーベスト法律事務所 小田原オフィスにご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています